第二十七話
「訳を聞こう」
「ハッ、まずメガ粒子砲は強力なのは確かであり、艦を増やすことで効果が見込めるのは間違いないと思いますが問題は技術を盗まれた場合、連邦の方が生産能力が高く、前線に投入されるのは時間の問題となります」
「そんなことを言っていては何もできなくなるではないか!」
「彼が言っているのは艦は連邦の領分ということでしょう。なるほど、その点で言えばMIP社のあのモビルアーマーというのも戦闘機の派生……性能云々以前に活躍できたとしてもすぐに解析され、模倣されてしまうわけか」
「……」
異を唱えるドズルの発言をユーリではなくキシリアが理解を示し、ドズルは沈黙する。
「決定的なのはそれだけの艦を揃えるとなると隠蔽は難しく、連邦に察知されることになるでしょう。そうなるとそれに合わせただけ軍が配備されることになるでしょう。そうなっては……」
「こちらの打てる手が減るか」
独立を果たすには武力による衝突は避けられないというのはザビ家や側近達の中では共通認識ではある。ならば開戦前から不利になるような事態は避けるべきである。
戦略面でいえば軍の配備、維持には金が掛かり、地球連邦の負担を大きくすることができる……がさすがに自分達に向けられる刃の数を増やしたいとはさすがに思わない。そもそもそれらの費用を補って困窮とまで言わずとも多少は苦しめることができるならともかく、国家予算から見れば微々たる量に過ぎないのだから。
その点、機動兵器は大きさから隠蔽する難易度は大きく下がる。
「更に艦の運用には多くの人員が必要とし、人口的に劣っている我々では連邦の生産能力と補充能力の前に敗れることとなるのでしょう」
人口面ではサイド全てを味方にすることができたなら解決するがさすがにそれは都合のいい話過ぎる。
生産能力は言わずもがな、だ。
「ここからは本題ですが、今回のジオニック社のモビルスーツとMIP社のモビルアーマーはどちらも素晴らしいものでした。しかし、キシリアが述べたとおりモビルアーマーを主軸とした場合、既存の戦闘機と通ずるところがあり、その危険度をより早く気づくでしょう」
そもそもコンセプトそのものが戦闘機と似通っているモビルアーマーを連邦が導入するのは難しくないだろう。
何より――
「そして実績主義な連邦も戦闘機と類似するモビルアーマーならば精神障壁も少ないでしょう」
地球連邦は簡単に言えば大身な年寄の思考に似ている。
安定しているなら今まで通りでいい。効率的で新しいものより安全な過去の遺物。優秀な未実績よりも平凡で長年の実績。
だからこそ――
「モビルスーツは正真正銘新しい兵器です。故に研究すればするだけ、開発すればするだけ、経験を積めば積むだけ我々は連邦よりリードすることができるでしょう。連邦が早期にモビルスーツを生産することはありえません。それが例えモビルスーツが有用であったとしても、華々しい戦果を上げたとしてもしばらくは既存の兵器を頼りにしてこちらの参入まで時間が稼げましょう」
それに企業側も全く新しい兵器に投資するという気概があるかどうかというのもある。
実際宇宙世紀、つまり宇宙が主体となった時代となっても艦は地球で使っていたものの流用して設計されているところからも明白だろう。
海のように空気や水の抵抗があるわけでもないのにほぼそのまま流用するというのは明らかに手抜きだろう。
既存の技術を捏ね繰り回して作ったもののは安心して安定的に稼げるし政府や軍からのクレームという厄介なものも少なくなる。
これがモビルスーツを導入したとすると非難轟々待ったなし、そんな貧乏くじを引いてまで冒険する大企業は存在しない。精々が何十年後かに繋がればと手慰みに研究、分析する程度だろう。
だが、それも仕方ないとユーリは考えていた。
(多少の兵器の優劣は数でどうとでもなると思っているんだろなぁ。事実間違っちゃいないしな)
それだけの国力があり、歴史があり、そして並ぶ外敵がいない。
ジオン公国は犯罪組織といえるが外敵と呼べるようなものに値しない……それが連邦の認識で、国力差を見ると当然なのだ。
いや、むしろジオン共和国の段階から宇宙警察ではなく宇宙軍を設立した地球連邦は国力差から考えると最大限警戒していると言っていいかもしれない。もっともそれを理由に利権を生み出し、国民には増税を行っているのだから目的より手段が目当てだったとしても誰も驚きはしないだろう。
「ふむ、いいだろう。モビルスーツを主軸としよう。ただし、モビルアーマーの将来性も期待している。並行して開発するように」
「「ハッ」」
(俺個人としては将来性はあると思うけど両方を開発するほどリソースあるかねぇ?大人しくモビルスーツを用意した方がいいと思うんだが)
「それとモビルスーツを搭載する艦の開発にも取りかかれ、要望は後日届ける」
「「承りました」」