第二十八話
転生者という世に知られればオカルトだのと正気を疑われる存在が生まれ、成長する過程で本来の歴史とは変化が生じていた。
それは大小含めれば幾多にも及ぶが、大きなものをあげれば3つの変化があった。
まず、1つ目はギレン・ザビの心境の変化。
ユーリの忠告によってデギン・ザビの教えを取り込むことで他者に対する理解を深めることで良くも悪くも他者の使い方を変えることとなった。
それが顕著に表れたのは2つ目である。
2つ目は過激派ダイクン派の減少、そして穏健派もしくは中立派のダイクン派の増大。
本来ならギレンはダイクン派のほとんどを粛清していたが、ユーリという優秀で信頼できる駒とダイクン派すらも使いこなそうという心情の変化によって起こったのはダイクン過激派の骨抜き、穏健派中立派へ鞍替えさせることに成功した反面ザビ家の影響力が反対勢力が保たれたために若干低下したがジオン公国の混乱を抑え、優秀な人材も多く残すことができたことで国力を落とすことも軽微で済んだ。
余談だがジオン公国では知られていないが、この国家体制変更時に混乱や粛清が小さかったことで独裁を始めて下がっていたザビ家の評価が別の意味で上がった。主に警戒や脅威において、だが。
3つ目はジオン公国からの科学者の亡命阻止。
もっと正確にいえばミノフスキー博士の亡命を阻止したこと。これによって本来漏れるはずだった核融合炉やメガ粒子砲などの技術が独占状態を保つことに成功し、更に史実よりも開発が進んでいて、MS-01クラブマンとMIP-X1の機能性が(正確には核融合炉が向上した副次効果)向上している。
そして今から行われるのは4つ目になる――――
「ほう、ダイクン派を使いたいと?」
「ああ。正直俺達の仕事が多すぎて人手不足だ。だが、任されているのは重要な任務だってのは重々承知している。だからこそ使える人員が少ないというのもな」
「それがわかっていてダイクン派を使うと?」
ギレンさんの眉毛がない眉が中央へ寄る。あまり気が進まないようだな。
まぁダイクン派を使うにしても裏の部隊である俺のところで使うってのは抵抗があるのはわかる。
「ダイクン派を直に調べて、交渉しているからな。他のところのお仲間よりもずっと知っている仲なんだ」
「得体のしれない味方より良く知る敵の方が使いやすいというわけか」
「まぁ敵味方なんてのは時と場所と利益で変わるだろ。その変わるポイントを掴んでおくことが肝要ってこった」
部隊に送られてくる人員を一々本当に信用できるのか、それだけの能力があるのか、どういった使い方ができるのかを調べるのは結構大変なんだよなぁ。
それなら潜在的な敵であることから徹底的に調べ上げているダイクン派の人間の方が使いやすいのだ。
「……いいだろう。ただし、ダイクン派を使う時は事前に報告するように」
「了解。とは言っても今ある部隊とは別の部隊として運用する予定なんだけどな。一応運用方針をまとめたのがこれ」
追加で資料を渡すとギレンさんが目を通すと喉の奥から笑い声が漏れ出す。やっぱり悪役だよなぁ。
「クックックック……ユーリ大佐はなかなかに政治家向きの性格をしているようだな」
「政治家なんて面倒なだけだろ。そういうのはギレンさんに任せるよ」
「それにしてもダイクン派をダイクン派で粛清とはな」
「まぁちゃんとした大義も用意してあるし、利も用意したから裏切らないだろうし……何よりザビ家への非難がなくていいだろ?」
「うむ、ではダイクン派はユーリ大佐に任せる」
「了解しました」
これが俺の苦難の始まりだったんだよなぁ。
俺はあくまでこちら寄りのダイクン派を引き入れるつもりだったのに……。