第二十九話
ダイクン過激派をいざ粛清だ!と動き出したらまるで骨粗鬆症を患っている……というか俺がそうした……のでボッキリ折れて内部分裂を起こし、各個撃破もしくは取り込みや同士討ちを起こさせて手早く過激派を消滅させることが完了した。
「それはいいんだが――なんで俺がダイクン派の筆頭になったんだろうな」
「客観的にはユーリ大佐はダイクン穏健派の後ろ盾となっているようなものですし……何よりギレン閣下がその差配をお認めになったのですから現実的にもユーリ大佐がダイクン穏健派を率いるのに相応しいかと」
いや、俺、そこまで望んだつもりないんだが……しかし、だからと言って今から知らぬ存ぜぬでダイクン穏健派――いや、過激派がなくなった今、ダイクン派でいいか――を見捨てたりすればさすがに悪評が立つし寝覚めが悪くなるので今更なかったことにはできない。
「こうなるとジンバ・ラルを殺すように指示を出さなくてよかったな」
「ええ、彼は過激派ではありましたがダイクン派の筆頭であったのは間違いありませんから我々が指示していたならいらぬ溝が生まれていたかも知れません」
シンシアの言う通りだな。
幸いと言ってはなんだがジンバ・ラルは粛清を始めてすぐにジオン共和国設立時からギレンさんと共に若いながら建国を助けたジンバ・ラル自身の息子であるランバ・ラル自らの手によって捕縛され、引き渡された。
ちなみにジンバ・ラルの扱いは犯罪者ではなく、ラル家自体が尻拭いをしたということで情状酌量という形で現役を引退して隠居(ほぼ監禁)という処置となった。
(作者:ところでランバ・ラルとギレン・ザビが同い年って知ってました?私は書くために色々調べててつい先程知りました)
息子のランバ・ラルがこちらについた理由は、ジンバ・ラルはダイクンの遺児達を使ってザビ家を引きずり下ろすつもりだったらしくその動きを察知した息子のランバ・ラルはこれ以上の混乱も、亡きダイクンの遺児を自分勝手な権力闘争に利用することが受け入れられず、秘密裏にそれを阻止していて今回の粛清は渡りに船だったらしいな。
まぁこちらとしては幾重にもありがたい話だ。
ダイクンの遺児達の監視は厳しくしているつもりだが、なにせ住んでいるのは地球。いい加減連邦との諜報合戦では本国すら万全とは言い難いのに十分に監視ができているとはとても言えない。
ジンバ・ラルが利用しよう動いていたにも関わらず察知できなかったあたり、俺達もまだまだだな。
そして何より情状酌量の余地を生んでくれたのは本当にありがとい。
なにせラル家は貴族で、貴族を罪人とするのは面倒が多い。特に親類関係だ。
貴族は貴族同士で婚姻関係を結んで地盤を形成している。もちろんラル家も例外ではなく、多くの貴族の親類が存在する。むしろラル家は名門だからより一層濃いと言ってもいいか。
そして罪人、犯罪者とする場合、その親類関係が黙っていない。自分達と縁続きである者から犯罪者を生まれ、名誉に傷がつくことを恐れる。恐れるがゆえに過剰に反応してしまう。
だからこそランバ・ラルの功績は認められ、俺達的にも面倒を回避することができた……まぁあくまでラル家の問題は、だが。
「まぁ教育を受けている人間である以上使い道なんていくらでもあるか」
考えをまとめつつ資料を作成……全く、せっかく鍛え上げた筋肉があるのに軍に属してからというものデスクワークばかりだな。
「……また仕事が増えますわね」
俺のモニターを覗いたシンシア少佐が苦笑いを浮かべている。
ちなみに俺の仕事スペースは2つ用意されていて、機密性が高い仕事用と通常業務用のもので通常業務用の方はシンシア少佐の真隣に設置されている。
物理的に近い方が何かと捗る(意味深)のでそうなっている……決して思ったよりも科学者共の監視や取締、ダイクン派との折衝などで別行動が多いからデスクワークの時ぐらい……などという下心ではない。
実際、今のシンシア少佐の意見は作成途中の資料を見てのもので、こういう意見を早く聞けるというのはありがたいことだ。
「それとまた嫌われてしまいそうですね」
「……しかし、やらんわけにもいかんだろう」
俺がダイクン派を使おうと考えているのは軍を監視する部隊……組織か?……の設立だ。
今回のことで軍はほぼザビ家の手中に収まることとなったが、そうなると内部から腐る可能性がある。連邦という外敵は存在するものの、それは国家の敵であり、個人や派閥の敵ではない。
そして敵が存在しないと腐りやすいというのが人間であり、組織だ。
犯罪のもみ消しや贈収賄、横領、機密漏洩などが発生する可能性が高まる。
それはもちろんギレンさんもわかっているだろうし、実際監査組織も存在する……が監査する側とされる側が同派閥だったなら馴れ合いが生じるのもまた自然な話だ。
そこでもともと対立していたダイクン派に監視をさせようと考えたわけだ。
番犬がいれば背筋を伸ばして職務を全うしてくれることだろう。
あ、ちなみに目や鼻が悪い、もしくは摘み食いをするような番犬は殺処分する予定であることを公にするからダイクン派が私利私欲私怨で動くことは少ない……はず。