第三十話
ダイクン派部隊の結成し、優秀でダイクン穏健派の中で数が少ない現役佐官であるダグラス・ローデンを隊長に、ランバ・ラルを副官に就けて早速調査に入った。
そしてさすが一時は政権を握った派閥に属し、その後に派閥争いで敗れたにも関わらず穏健派として踏み止まった奴らは有能なやつが多いな。馬鹿はとっととザビ家派に寝返っているし、頑固者は過激派へ、臆病者は連邦の影響力が薄い月かサイド6に逃れている。つまり篩(ふるい)にかけられた結果、多くが金粒であるということだな。
同時に思うのは戦争に限らず質も大事だが数も大事、間違いない。
今回抱えたダイクン派部隊の人員は200人。そして以前までのユーリ隊の人員は100人程度、単純に3倍だ……というか気を抜くと部隊が乗っ取られそうだ。今まで以上に管理に気を配らんとな。
ちなみに100人というのは部隊に所属しているという意味であって部隊に属さずに情報収集をしている人数は10倍どころではない人数がいる……らしい。さすがにそんな末端まで俺も知らんしな。
それと部隊員の100人も半分は士官学校から引っ張ってきた臨時隊員だったりするな。そしてダイクン派の方は俺や部隊員から使ってもいい程度には信用できる者達だけを選んでいるだけで数だけならもっといる。おそらくこれからも採用していくことになるだろう。
「しかし視点が変われば情報というものは変わるな」
当然といえば当然なんだが、ユーリ隊とダイクン派部隊から上がってくる報告書で同じ事柄が書かれているんだが考察が全く違うものになっている。
そしてこれに驚いているのはもしかすると俺の周りには似たような人種しかいなかったからかも知れないと思い至る。
ユーリ隊は士官学校を卒業した者で構成されているのに対してダイクン派部隊は本当に様々だ。
なにせ『ダイクン派』を取り込んだ形なわけだが、ダイクン派というのは軍人だけを指したものではなく、本当に『ダイクン派』を取り込んだものだ。
政治家、医者、弁護士、パン屋、クリーニング屋、マフィア……軍人ではない民間人まで徴兵された。
もちろんいきなり彼らに軍人としての仕事なんてできないので彼らなりに情報収集を任せている。そのため情報は多岐に渡り、考え方もそれと同じだけ増えているといえる。
士官学校の教育を受けた者ばかりで構成されているユーリ隊視野を狭くしてしまっている可能性があるな……そう言えば士官学校には転向組の数は多くない。それが原因か?実際ユーリ隊はほとんどが転向組ではないし。
…………。
………。
……。
…。
さて、現実を避けてばかりはいられんよな。
「……お嬢さん。親御さんはどちらかな?ここは遊ぶ場所ではないんだが?」
「父さんからここに来るように言われました!メイ・カーウィンです!よろしくおねがいします!」
カーウィン家って言ったらダイクン派の中ではラル家と並ぶ家じゃないか、そんな家のご息女がなんでこんなところに?
「えっと父さんからはザビ家の方々に従う意志を示すためって言ってました」
それって人質じゃねぇか。
いや、まぁ士官学校はそういう側面が強いんだからそっちでいいだろ。なんでウチなんだよ。
「後、上手くユーリ・ケラーネ?って人に取り入ってメカケ?ってのにしてもらえれば幸いだ!とか言ってましたけどメカケってなんですか?」
メカケ?……めかけ……妾か?!おい、親。子供になんつーことを教えているんだ。
というかこのお嬢さんは合法なのか?どこからどう見ても違法にしか見えないんだが?
「お嬢さんはおいくつかな?」
「今年で10歳になります」
その言い方だと現在は9歳だな?思いっきり違法じゃねーか!労働基準法的にもそういう話の内容的にもな!
…………ところで、シンシアさん?いつもの美しい笑顔なんだがとっても怖いオーラを放っているんですけど……ほら、お嬢さんも涙目で震えていらっしゃるじゃないか。
え?お嬢さんと話がある?ついでにカーウィン家とも話してくる?なら俺も行ったほうが……あ、はい、留守番してるわ。気をつけてな。