第三十一話
「改めてお世話になります。メイ・カーウィンです!」
……てっきりそのままお引取り願うんかと思ったんだが?とシンシア少佐に視線を向けると――
「妾云々はともかく、本人の才能は本物です」
「ん?このお嬢さんはそんなに凄いのか?まだ未成年どころか義務教育すら終えていないはずだが」
「技術者として……特にシステムエンジニアとしては既にMS-01のOSに携わっています」
「は?ちょっと待て。MSは最重要機密だぞ。さすがに才能があろうとこんな子供に……」
最重要機密というのはドラマや映画などでよく口にされるが、そんな甘いものではない。最重要機密というのはその存在を知られることもないほどの機密だ。
それを知るためには能力云々の話じゃなく、役職と信頼の重さによるもののはず……なの、だが?
「ここに来る前までジオニック社に勤めていたそうで」
「……ああ、なるほど」
モビルスーツというのは既存の兵器でとは違っているために開発には金、時間、物資、人がそれ相応に……いや、それ以上に費やされている。
殺し合いならともかく、兵器(商品)の開発のためなら子供すらも使う……か?やっぱり無理があるだろ。
そもそもモビルスーツを開発していることを規定した人員以外に漏らしでもしたらジオニック社は膨大な違約金と信頼が失墜する。
だからこそ解せないのはこのお嬢さんがモビルスーツの開発に関わっているという事実をここで話してしまっている事実だ。
「それが彼女は確かにモビルスーツのシステムエンジニアとして働いていたのですが、そもそも開発しているものを伝えてはいなかったそうです」
「じゃあなんでこんな話をした」
「メイさんはそれを自力で気づいたんだそうです。実はここに来ることになった理由でもあります」
……これはどっちだろうなぁ。このお嬢さんが優秀なのか、それともジオニック社が間抜けなのか判断に困るな。
「周りの人達は気づいてなかったから私が優秀なの!」
まぁそれなら幸いか?さすがに軍の主力兵器を製造……というかジオニック社はジオン公国の主要企業の1つなんだ。10歳未満の平凡な子供より劣るとは思いたくはない。
「シンシア少佐、間違いないのか」
「はい。メイさんのプログラミングやその露呈したプログラムを基に描いたという設計図も見せてもらいましたが間違いないかと」
シンシア少佐はプログラムまで精通していたのか……というかプログラムから設計図を描き起こす?そんなことができるのか?
「でもアレは大体妄想で描いたから……変でも起こらないでね?」
そう言って渡された設計図には――
「これは……本当に妄想の産物か?」
あまりにも先日見たモビルスーツと類似している。もちろん妄想で描いたというだけあってかなり違うんだが、間違いなくモビルスーツだとわかる。
「なるほど、とりあえず背景は理解した。しかしなぜここに?」
「ジオニック社の故意ではないにしろ情報漏えいには変わりないのですが幸いカーウィン家のご令嬢でしかも最近になってザビ家との繋がりが強いにも関わらずダイクン派を任されたケラーネ大佐に人質として差し出して家の安全を図ったようです」
最重要機密を知ったとはいえ娘を人質に……いや、家の安全のために差し出す親というのは贔屓目に見ても――
「ろくでなしだよね」
差し出された娘に言われているぞ。
まぁ人より家を守る貴族らしいといえばらしいがな。賛同するかどうかはまた別の話だけど……まぁ俺もシンシア少佐もそんな家に生まれ育っているからなぁ。特に特殊な記憶もないシンシア少佐はどちらの気持ちも理解できてしまい苦笑いを浮かべている。
「そしてメイさんをここに連れてきたのにはもちろん理由があります。端的に言えば科学者の通訳が欲しく有りませんか?」
「よし、採用!なんだったら俺が自腹切ってでも雇ってやろう!」
「あ、ありがとうございます?」
お嬢さん……メイちゃんでいいか……はわけがわからないという表情を浮かべながらもお礼を言ってくる。うん、子供だからなのかウチの科学者共が異常なのか知らんが素直でいいな。
科学者というのは自分がわかるから相手もわかるだろう……などと思って説明をしないわけではない。もしそうならいくらか矯正していくことができるかもしれないだろ?しかし現実は『説明したいことしか説明する気がない』だ。
前者ならわからないと伝えれば説明するが、後者では説明したいだけだから説明させようとすると機嫌を悪くしたり、黙って話さなくなったり、途端に言語障害があるのかと疑いたくなるぐらいにしどろもどろになったりすることが多い。
ついでに言えば彼らのような『本物の天才科学者』の助手というのは科学者寄りでありながら今一歩届かず、説明能力がある者達であり、橋渡しの役割をになっている……のだが、今一歩とは言っても科学者には違いなので同じ穴のムジナになることが多々あり、苦労している。
そんな変人達だからこそ人型兵器なんてものができたのかもしれないがな。
ちなみにギニアスは『相手が理解するまで説明するが途中で面倒くさくなりテキトーになる』というタイプだ。相手の地頭が良ければまだ救いがあるぞ。ついでにいえば俺はギリギリなことが多い。おかげでめっちゃ時間が取られるんだよなぁ。
これが私事だからいいものの、将来仕事で、と考えると頭が痛くなる。
「というわけでメイちゃんには徹底してプレゼン能力を叩き込むとしよう!」
「え~、モビルスーツがいいのに~」