第三十二話
メイちゃんを迎えてプレゼン能力を叩き込む……つもりだったんだが、本人が喋るのが好きなので俺やシンシアなら対話式で結構なんとかなることが判明した。
子供だから、じゃなくてメイちゃんだから、であることを祈る。もちろん教育は続けていこう。
そして意外にも俺達が担当している科学者(マッド)が思った以上に人間だったことも知る。
教育に悪いかなぁと思いつつも公的には技師として勤務していることになった(ギレンさんに話を通している。詳しくは知らないがカーウィン家にはペナルティが課せられたらしい)のだから当然他の科学者と共に職務に就いているんだが……ウチの科学者連中、自分の子供や孫、姪のよう可愛がっているのだ。
まぁ理解できんでもないけどな。
自分達の生きがいは常人の域から逸脱していることをわかっているし、本物の子供や孫がそれを理解できるとはさすがに思っていないが夢ではあるのだ。
そんな思いをひた隠し……いや、本人達すらそんな思いがあるとは思ってもいなかったところに急に可愛く優秀な子供が現れたなら……それはもう可愛がりたくなるってもんだろう。
ただ、お願いだからお前らの狂気だけは感染さないでくれよ?……うん、言っている俺自身が無理だろと思っている段階で現実逃避なんだが希望ぐらいは持たせてくれよ。希望は絶望の裏返しなんて言っちゃ駄目だぞ?
「ケラーネさんケラーネさん!予算ください!」
「メイ軍曹、職務中は階級をつけるように」
シンシア少佐、その前に部屋に入る時はノックとか緊急時でもないのに廊下を走らないとか開口一番に予算くれ……はよく言っているな。しかも科学者達が多いが……まさかそんな伝統があるわけじゃないよな。
というか早速狂気が感染ってるんじゃないよな?予防接種かワクチンはないのか。
ちなみにメイちゃんは技術士官の見習い的な立ち位置で配属され、階級は軍曹。技術士官は最低でも尉官、つまり少尉なんだがさすがにこの年齢で士官は無理だった。その代わりと言ってはなんだが俺直属の部下ということになった。
何気に俺の直属ってシンシア少尉しかいなかったからな。新しい後輩ができてシンシアは嬉しそう……ではないんだよなぁ。ヤキモチ……なわけないか。
いや、一応ダイクン派部隊も直属の部下なんだけども……まだ信頼できるほどの関係じゃないだろ。ユーリ隊は半数は臨時部隊員で、もう半分もギレンさん直属だから正式な部下ってわけじゃないしな。
「それでメイ軍曹は何がしたいんだ」
「これ作りたい!」
勢い止まらずにバシッ!という音が鳴らせて差し出された書類を受け取り目を通す。
俺に書類を渡したのを確認したシンシア少佐はメイちゃんの首を掴んで……おい、今メイちゃん浮いてたぞ。片手で持ち上げたのか?……無理やり椅子に着席させ、対面に仁王立ちして懇懇と説教を始めたがとりあえずは視線から外して書類に戻す。
あー、なるほど?モビルスーツの正規採用が決まったからモビルアーマーの情報レベルが下がっているのか……いや、これは多分ギレンさんの策かな。
モビルアーマーの開発は進めているがおそらくこれ、囮だな。こっちを露出することで主力兵器であるモビルスーツを隠すつもりなのだろうな。証拠に核融合炉が新型じゃなくて旧型のものに変わっている。
それでメイちゃんも知った……わけねぇーだろ!いくらレベル下がっても軍曹レベルで知れる情報じゃないわ!!そんなんで連邦を騙せるわけないだろ。誰だ!流したの!!って犯人は調べるまでもなくウチの科学者達だな。知ってた。
で、本題は――
「モビルアーマーをベースにした宇宙作業機って」
明らかにオーバースペックだろ。戦闘機を上回る……諜報部が持ってきた最近開発されたっていうセイバーフィッシュとかいう戦闘機すらもスペック的には上回る作業機って明らかに無駄だろ。
「瞬く間に駆けつけ瞬く間に作業して瞬く間に去る!時は金なりってやつですよ!!」
「言いたいことはわからんでもないが、これ1機で幾らになるか計算したか?」
必要な材料は書かれていたが見積もりがないから気になったんだが……案の定というかメイちゃんははてなマークをちらしている。まぁ10歳にも届かない子供だからどこか見落としがあっても仕方ない……というよりも子供らしくていいな。
ちなみにこの作業機、既存のものと比較すると100機近く作ることができる。用途が違うとはいえ流石に非効率が過ぎるな。
「駄目ですか」
俺の評価を聞いて落ち込んでいるようだが――
「これはこれで使いみちはあるだろ」
高速で移動できるんだから救助には良いだろう。地上とはちがって真空だから風が無いのも大きいな。これほど高速だと飛ばすだけで救助は難しくなる。
それに簡単な武装を施せるようになれば火力支援も可能だろう。移動射撃はできそうにないがな。
「まぁでも要検討。つまりもう少しコスパ良くならん限り少数配備すら難しいだろうな」