第三十三話
「なあシンシア少佐」
「なんでしょうか」
「メイちゃん……軍曹は10歳だよな」
「そうですね。正確には後1ヶ月もすれば10歳になるようです」
「それは誕生日会を開かんといかんな!……じゃなくて今更ながらこの資料や設計図が10歳にもならない子供が書いたものだとは到底思えないな」
最初に持ってきた書類に製作の見積もりがなかったのは唯一と言える問題で、それも次からは修正されて問題はない……問題はないが、問題ないことが異常だ。
特殊な記憶基準でいえば義務教育途中……しかも小学生高学年が例え自分が開発したいからと言って提出用の資料をこれだけ揃えられるなんてまず無い。
天才というのは本当に居るんだなとまざまざと見せつけられた気分だ。
そして5度目の再提出でとうとう採用を検討するレベルのものを仕上げてきた。
前線工作支援MA・オッゴである。
(そこそこ)安く(製造が)早く(素人でも)扱い易いがコンセプトのMAとされているが正確にはMAと宇宙作業機の狭間の機体だ。
宇宙での戦闘で必要とされているのはMS、そして防衛に必要なものは、と考えるとそもそも防衛において本来ある利は地の利だが、宇宙だとそのままでは物理距離ぐらいしか存在しない。もちろん物理距離は兵站の圧迫による戦力規模の縮小化というメリットはあるが地上戦から比べるとかなりメリットが少ない。
そこで地の利を生み出すために考えられるのは防衛兵器の存在だ。
防衛兵器といえば要塞砲だが、これには欠点が多々ある。まずコストが高い、続いて地球での運用と比べると守れる範囲が狭すぎる、そして1番の理由としてはコロニーに設置すると連邦軍にコロニーそのものを攻撃する理由を与えてしまうことなどがある。
そして解決策として開発されたのが衛星砲台やミサイル衛星だ。
これらはコロニーや要塞(資源採掘用小惑星を要塞化予定)の周囲に浮かせて設置するものだ。
俺達はそもそもMSを主軸にすると決めているがその前提条件として強力なチャフのような働きをするミノフスキー粒子を散布してレーダーやセンサー無効化、そして現代の主流である誘導兵器を無効化して有視界戦闘に待ちこもうとしているわけだが、そうなると守りにもその手のものは使えない。ならどうするか――誘導兵器登場以前の飛行機に対しての迎撃と同じ、つまり耳心地良く言えば弾幕、身も蓋もなく言えば数撃ちゃ当たる。簡単に言えば量で補うことになるわけだ。
で、その量を補うのにはもちろんその量に見合うだけの衛星が必須なんだが……これが本題なんだが……設置にめっちゃ時間掛かるんだよ!
しかも軍の頭脳であるはずの総司令部はそれをどうやって設置するつもりか聞いてみたら……まさかのMSで設置するっていうんだからついギレンさんにマジで言ってんのか問い合わせちゃったぜ。
よくギレンさんに直接提案を持っていくが、それはあくまで俺の任務に関わる範囲のもので越権行為をしているわけではない。だから律儀に軍規を守って正式な手順を踏んだ上で具申するようにしている。
しかし、このことに関してはマジで意味がわからんからなぁ。
MSで衛星を設置?馬鹿じゃないのか。
宇宙空間で弾幕を張るだけの砲台とミサイルだぞ。効果的な弾幕を張るのに何千何万の衛星を設置すると思ってんだ?!MSが余裕で何千単位で用意できるってんなら問題ないが、そんな金も資源もあるわけないよなぁ。
というか高級なMSを雑事に使うなよ。マルチに使えるように作っているとはいえ、非効率にも程があるだろ。つい先日4号機までロールアウトされて、試運転データを見たが随分と兵器らしくなっていたから期待するのはわかるが、一定時間を過ぎると核融合炉の熱の問題で冷却ベッドに寝かせる必要があることはそれこそ核融合炉を使った兵器の開発をする段階からわかってただろうに。
というわけでメイちゃんにそういう方向性で設計してもらった……が、生産は決まったのに設計が決まったわけではない。
言葉を間違えているように見えるかもしれないが間違ってはいない。生産は決まってるんだ。でも開発自体は終わっていない。
なぜなら主力兵器となるMSの部品と共通規格とすることで生産性、整備性を向上させようという狙いがあるからだ。
いい加減国力に差があるってのに無駄はなるべく省いておく必要がある。
「メイ軍曹はそんなに長くないかもなー」
「生産が決まったら曹長、もしかしたら少尉に上がるかもしれませんね」