第三十四話
なぜかジオニック社が着実にMSの開発を進めている傍らでMS開発をするも前回のコンペティションに参加できなかったツィマッド社から招待状が届いた。
ツィマッド社が接触してきたのはやっぱりこの前のMIP社との共同開発かねぇ?
MAであるオッゴの開発にはMAの技術やノウハウを持つMIP社に協力を頼むのは当然の選択だ。
MSと違ってMAは主戦力から外れるのは確定した以上、MIP社にテコ入れしなければならなかったのでちょうどよかった。
単価自体はオッゴの方が安いが生産量では問題が発生しなければMSよりも上回る可能性があるからな。軍の生産だけでは追いつかないのは間違いない。だからMIP社を巻き込んでおく。
おかげで俺はMIP社寄りの人間に思われてしまったようなんだ。まぁ今まで俺達の表の仕事は技術部の警護と監視だったからな。突然開発に口出しし始めたり、開発そのものを始めたりして、そして協力を頼んだのが今イケイケなジオニック社ではなく、落ち目気味のMIP社と協力関係になればそう思われても仕方ない部分はあるが……そんな私事で動くと思われるのは心外だ。
最近はすっかり軍人らしく野蛮な感じが板についてきたと自負しているが、根は貴族の嫡男な俺がそんな小さいことで動くかっての。
貴族ってのは支配者だ。支配者……支えるものを配る者と書く。つまり人や物資を分配するのが支配者の役割だ。もちろん能力によって優遇冷遇はあるが、MIP社は冷遇するのは時期的にも企業の大きさ的にも能力的にもない。ならばある程度フォローはしておくべきなんだよ。
そういう意味ではギレンさんも片手落ちなんだよなぁ。MAの開発を続行させるのはいいが、フォローが足りない……いや、考えることが多すぎてそこまで気が回せないのか。
「で、わざわざ俺を呼び出したんだ何か用事があるんだろ」
挨拶そこそこに本題を切り出す。
「ケラーネ大佐には是非当社のMSの開発のご助力を願いたく……」
「ほう、俺がMAの開発に力を入れているのを知った上でそれを言うのか」
俺に助力を頼むということは公務ではなく、あくまで俺個人の裁量で動かせる範囲で、ということだ。
さすがに技術部を個人の裁量で動かすことはできない。せいぜい直属の部下であるシンシア少佐やメイ軍曹、後はユーリ隊の幾人かとダイクン派部隊、そして度々ヘルプを頼んでいるギニアス筆頭にサハリン家、後は今回の件では使えないだろうが実家ぐらいか。
そしてオッゴの開発にいい加減多くない人員を割いているし……というかギレンさんもなんで発案者が俺のところだからってそのまま俺のところで開発しようと思ったんだろうな。
技術者ってメイ軍曹以外では片手間で手伝ってくれているギニアスしかいないんだが?
こんな状況で手助けしろと言われても、な。
「お言葉ごもっとも。しかし、このままジオニック社のみに独占を許せば甘えが出る可能性もございます。ですので何卒……」
自分の利を隠してライバル企業への不信を煽るか。まぁ懸念は間違っていないがな。独占というのは怠慢へとつながる。
ジオニック社は半国有企業である以上倒産することはないだろうが主力兵器で怠慢なんてやられては国力に余裕がないジオン公国では致命傷になる。
「具体的には」
「手始めにこちらの所感を」
そう言って手渡された書類にはツィマッド社が開発しているだろうMSの設計図や試験データ、改善点や問題点――
「って、おい。いくらなんでも赤裸々過ぎるだろう」
「これはご協力いただくための我々の誠意でもあります」
いや、これはもう一種の脅しだろ。なんて思いながらも持ち帰ることになるにしてもせっかくなんで流し読みすると――
「んー……ピンとこないなぁ」
「きませんか」