第三十六話
ツィマッド社はユーリとの会合後もMSの開発を進めた。
やはりMSを対抗もせずに独占されるのは次回のMS開発競争の舞台そのものから外される可能性を考えるとまずいということになった。
その上でユーリの意見を取り入れた。
主力機は譲るにしても特殊部隊やエース専用機などを目指しての開発に切り替えることとした。
それに伴い、どうやって手に入れてきたのかジオニック社のMSのコクピットを模倣(寄せただけで同じものではない)して共通化を図ってクライアントに受け入れやすいような下地を作っていく。
主力機……つまり量産機は諦めたことで本来要求されるコストパフォーマンスを度外視して開発を進める。おかげで元々差があったジオニック社とツィマッド社のMSのコスト比は試作段階の現在で2.5倍ほどの差となっている。
反面ジオニック社はこのツィマッド社の方針転換に焦りを覚えていた。
主力機の開発というのは間違いなく目先の利益としてはプラスではある。しかし、ツィマッド社の開発はMS開発技術という観点においては劣る。
量産機の開発は良く言えば基準であり、悪く言えば平凡な兵器という意味だ。その基準を作るというのは大きなメリットであり、大きなデメリットも抱えていた。
量産機ということは誰でも使える、丈夫で、生産性がいいことが前提条件で、その反面先進性や特化性などは求められない。
特に先進性は次世代機の開発に大きく影響を及ぼすことになるのは明白だ。なにせコストの関係上使えなかった技術を使ったMSが少数とは言え投入されてしまえば、次世代機はそれを上回るか匹敵するものにしなければならない。
そしてそのノウハウは間違いなくツィマッド社が多く獲得することになる。
まとめると事実上ツィマッド社の開発する精鋭機とは次世代機試作型なのだ。
将来を考えればジオニック社としては面白くない事態であった。当然それを座して待つジオニック社ではなかった。
ただし、その未来を予見できないほど馬鹿ではなかった。しかし、その対策と行動が愚かではないということはイコールではなかった。
「ツィマッド社のMS開発の方針を変更させたのは貴殿らしいな。ユーリ大佐」
「変更させたってのは語弊があるなぁ。俺は助言が欲しいと請われて応えただけだぞ。キシリア士官候補生」
なんか突然呼び出されたんだが……なんじゃ、その意味わからん格好は。なんで顔のほとんどを紫色のマスクで隠してるん?中二病を発病しちゃった感じか?ギニアスのボクガカンガエタサイキョウノヘイキ集と同類か?いや、あっちはガチで実現目指してるから中二病じゃない……のか?でも大気圏突入してそのまま落下してその速度と質量で破壊、そして大気圏外へ離脱するという脅威のスーパーボール兵器は無いと思うんだ。絶対迎撃されるか落下後に壊れるって。
「それは越権行為ではありませんか?それにツィマッド社はコンペティションにすら参加していなかったのです。今更横紙破りする必要性を感じません」
ハァ……個人が持つ人脈までは口出しはせんが、さすがになぁ。
更につらつらと言葉を続けるが紫タイツは延々と責めるようなことしか言わない。
こいつ、わかってんのかねぇ。ジオニック社を取り込むつもりだろうが、そんな簡単に取り込みできりゃ苦労せんぞ紫タイツ。そもそも取り込むのではなく良いように使われているということに気づかんかねぇ。
だいたい俺とツィマッド社にしても別に取り込んだり後ろ盾になったりしているわけではない。つまり俺に言っても無意味……なんだがそういったところで変わりそうにないんだよなぁ。
それに責めるだけで相手を説得できると思っているのか?……まぁ自分が上の立場だと思っているんだろうね。このひよっこは。
「で、それがどうした?」
今までの話をまるっと無視して一刀両断。
俺が反論しなかったことで自分が優位に立っているとでも勘違いしていたようだが、正直面倒だから聞き流していたんだぞ。そんなことも察せれないあたり頭が痛くなる。
こんなんが重役候補って……本気か?
「お嬢ちゃん、もうちょっと社会を知って出直してきな。今の嬢ちゃんの価値なんてそこらの一般兵にも劣るぞ」
留学って何しに行ってたんだか……まさか留学先でもこんな感じだったのか?
「……貴様、そのものいい――」
「黙れ小娘。そもそも無官の分際で偉そうに口聞いてんだ。それこそ越権行為なんてレベルじゃないぞ」
第1、ジオニック社がこの紫タイツを使ったのは紫タイツ自身を使うんじゃなくてギレンさんに配慮して欲しくて伝令役として使ったんじゃないかと思うんだがな。
自分の手柄欲しさに動いたんだろうが、せめて士官学校を卒業してからにしろよ。
「ザビ家に生まれたことを幸運に思うんだな」
そして下につく軍人にとっては不幸だな、