第三十八話
小惑星ペズン。
そこは元々資源採掘用だったがジオン公国に移行する際にひっそりと目的が変更されることとなった。
それは軍事基地としてのものである。
主に新兵器試験場という役割を担うことを想定したものだ。
サイド3近郊での兵器試験はコロニーの安全、地球連邦軍に常に監視されていることを考えると新兵器の試験には適さないための対策だ。
そしてその小惑星ペズンの軍事基地が先日完成し、これからはジオン公国の剣となり盾となり鎧となるMSやMAなどの機動兵器の試験が行われることとなる。
そこにユーリ・ケラーネ大佐は司令官として勤務することとなった。
しかし、そんな裏のことを知るものは少なく、ユーリは左遷されたようにしか見えず、少し混乱が生じた。
特にユーリの下に来てからあまり時間が経っていないダイクン派部隊が、新たな後ろ盾が揺らいだことに不安を抱いたのだ。
それを解消するには説明することが近道ではあるが、極秘事項である以上不可能だが放置することもできないため、ダイクン派部隊からも人員を出すことになった。
人員はランバ・ラルの副官であるクランプを派遣しようとダグラス・ローデン、ランバ・ラルの両名が推薦を出したが、秘密裏に宇宙戦闘適性を調べたところあまり高くないためテストパイロットとしては不適切と却下され、代わりにその場にいたランバ・ラルやコズン・グラハム、アコースが選出される。
ちなみに現場指揮官やベテランを引き抜くことでダグラス・ローデンにチクチクと嫌味を言われたのはご愛嬌だ。
シンシア、メイは当然として信頼できて能力的にも今回の任務的にも不都合がないノイエン・ビッターを引っ張ることに成功した。
ユーリ隊からは大部分は今まで通り諜報活動を、一部は技術部の監視や管理を引き継ぎすることとなったのであまり引き抜かず、わずかに引き抜く形となった。ちなみにそのわずかな人員の中にはキリングの名前があったりする。
狂犬のようなキリングだが、ザビ家への忠誠とユーリが脅しつけてから事前確認が行われるようになり扱いがしやすくなったが殺意の高さは変わらない上に隠す気もないので周りに緊張感を与え、抑止力として活躍している。ただし、本人は粛清難易度が上がって面倒だと思っていたりもする。
とりあえず信頼はできないが信用はできる人員を揃えることができたのだが――
「問題はジオニックとツィマッドだよなぁ」
「まだ本格稼働していないのに凄い諜報合戦ですね。現場からいい加減にしろ、という声が多数上がってますし」
一応そういう産業スパイ的なことは契約で禁止されているんだがなぁ。こっちも協力してもらっている以上はある程度配慮しなくてはいかんのだが……ものには限度というものがあると思うんだ。
番犬として連れてきたキリングは今回のことには役に立たないしなぁ。
奴は国益に、もっといえばザビ家に害を為す敵に対してはよく噛み付くんだが、ジオニックにしろツィマッドにしろ重要な役割を担っているにしてもジオン公国の企業に過ぎないし、そもそも技術流出したところで……というよりむしろ技術が発達することを見込んでむしろ後押ししている。たまにシバいて注意はするが修正できるとは思っていない。ただの憂さ晴らしだ。
確かに国益という観点だけで見れば間違っていないんだが、企業だって利がないとやっていられないんだよなぁ。
「どうせもうすぐお互いの試験機をお披露目するだろう!」
ちょっとでも有利に、相手の弱みを強みを調べたいってのはわからんでもないが俺達の管轄でやるのはやめてくれや。
……って何回言ってもやめやしねぇ。唯一の救いは相手への妨害工作はキリングが取り締まってることだな。
「「大変申し訳有りません」」
「言葉だけの謝罪なんて結構です」
シンシア少佐が辛辣過ぎる。まぁ1番苦労しているのはシンシア少佐だからわからなくはないけどな。
ちなみに謝罪をしているのはツィマッドから出向してきたジャン・リュック・デュバルと同じくジオニックから出向してきたエリオット・レムだ。それぞれ技術将校で少佐となっている。
シンシア少佐はこう言っているが彼ら自身は熱心な……というか熱心過ぎるぐらい自社のMS開発に余念がない。
いや、本当に余念がないのはわかるんだ。なにせ相手がどんなであろうが自社のMSが1番だっていう気概を感じるからな。反面、余念がないってのは他の奴らが何をしても興味がないってことでもあるんだよなー。だからシンシア少佐がバッサリ切って捨てているんだけども。そして反省なんてしない……いや一応反省はするのか?すぐ忘れるというかMSに熱中するだけで。
「なんか子守の範囲が広がっただけじゃね?」