第三十九話
「ああぁ……ここって天国だったのね!ちょっと生産能力に難があるけど!」
そう悦に入るのはこの基地内で1番充実しているであろうメイ軍曹だ。
それはそうだろうな。ジオニックやツィマッドが争う中、高みの見物……じゃなくて上げられてくるデータをホクホク顔で解析している。
気になるところなんかはメイ軍曹だと階級的に手続きが面倒なんで俺が代理として資料請求して手に入れている。
まぁ俺も面倒ではあるが国益に繋がるとなれば否はない……例えそれがメイちゃんのダダ漏れした欲望の副産物でもな。
……ただなぁ。
「駄目なものは駄目だ」
「ちょっと!ちょっとだけでいいから!」
「その手には乗らんぞ。あのマッド達がよくやった手口だからな。許可を出したら最後大暴走するのはもはやお約束だ」
「ムゥ」
頬を膨らませる幼女を宥める。
まぁいい年している俺だってコンペティションでみた時よりもロボット感が抜けた人型兵器に心躍ったからわからんでもないがな。
っていうかなんでこの幼女さん、MS作ろうとしてんだ?しかも色々パクってるからなのか才能なのかは知らんが完成度が妙に高くないか?
個人的には作らせてもいいとは思うぐらいの出来だ……ふむ、個人、か……いや、駄目だな。金も資源も用意できるが技術の流用がバレれた時が怖い。せめて根回ししておく必要があるが、さすがにものになるかどうかわからないものでそこまでするのもな。
と言っても納得しないのは今までの経験上わかっている。だから目先を逸らす。
「近いうちにこんなものをする予定なんだが――」
「……整備性試験?!」
むくれていた幼女は一転、目が眩むほどにキラキラした瞳と希望に満ちた表情に変わった。わかりやすいやつだ。だが素直なやつは嫌いじゃないぞ。
まぁそもそも子供なんだから素直な子の割合は多い……はず……だ……うん。
「ちなみにメイ軍曹は年齢と階級を考慮して不参加――じょ、冗談だ!だから泣くな!」
「な、泣いてないもん!」
「ほら、チョコあげるから、な」
「そんなもので懐柔されません…………苦」
しまった。合成チョコと違ってナチュラルチョコは甘さ控えめのビターチョコが多い。そして俺が持っている例外ではない。
さっきの冗談の後にこの仕打ちはマジギレされても仕方ない所業だ。
「すまん」
「いい……大人な味。私も大人だよ」
「そうか」
別の意味で涙目になっているメイ軍曹の頭を撫でる。
「大人なメイ軍曹に言っておく。道具の使い方は自由だ。だからこそ使う側に責任がある」
「……」
「逆説的に作った側には使い方に対しての責任はない。だが、道具を正しく使えるようにする責任がある」
メイ軍曹……メイちゃんは頷いているがちゃんと理解しているだろうか。
頭がいいことと覚悟と突きつけられる現実が全てイコールになることはめったに無い。
理解できていても、覚悟していても、現実になった時に揺らぐ。大人と子供に程度の差はあっても当然のことだ。
そしてメイちゃんは無邪気に兵器を開発しようとしている。それを必要性の有無や予算の都合など経営面で止めることはあっても、良心の呵責で止めることはできない。
ならせめてメイちゃんの負担を軽減できたらいい……んだけどなぁ。
「ユーリ大佐はお優しいですね」
「優しいもんか。本当に優しいなら養女あたりにして実家に押し込んでおくさ。しかし、ジオン公国にそんな余裕はない」
「それでもきっとメイ軍曹は将来感謝してくれますよ」
「正直、感謝されるようなことがない方がいいんだがね」
……後、こういう教育しておかないと道を踏み外してマッド一直線になりそうだしな。