第四話
敵を知り己を知れば百戦殆うからず。
兵法なんて意識しない一般人でも知っていることが多い2つの兵法の内の1つだろう。ちなみにもう1つは三十六計逃げるに如かず、だな。
そして有名だけあって真理であると分かる。
己と敵を理解、分析ができるなら勝利、もしくは負けることは……少なくとも惨敗はない。
「野郎共!パーティーの時間だ!」
「ヒャッハー!!」
元気の良い返事でなかなかよろしい。
彼らは俺が指揮する活きの良い駒達である。
「ゆけ、ジオンの精兵達よ!!憎き敵を葬り去るのだ!」
「ヤッハー!!!」
と威勢のいいことを言っているが、実態はただの模擬戦である。
コロニーは実のところ弱者の守りとしてはなかなかの守備力だ。
弱者の守りというのは何かというと一見して弱そうに見えるし事実として弱い、だが弱いからこそ攻めることが難しいという事象があるんだ。
例えば女性だ。
力は男に比べれば弱いし、男尊女卑の傾向が未だに残っているから立場的にどうしても弱い。しかしだからと言って暴力を振るえば一転して男の方がよほどの理由がないと、下手をするとあっても悪になる。そもそも暴力が違法?そんなことは知らん。世の中違法でもまかり通ることはいくらでもある。
それはともかく、コロニーというのは正しくこれに当たる。
あまり深く考えて来なかったが、今になっては地球連邦が動かなかった理由もこれにあるだろう。
要塞を突破するのに使われる現代の戦術はどのような形であれ基本は爆破だ。しかし、爆破というのは地球でならともかく、コロニーで行うのはかなりのリスクを伴う。爆破で一般市民が死んでしまえば世論が動き、それを実行するように命令した者の政治生命どころか社会的に死んでしまうに等しい。
つまり、地球連邦政府の政治家達の保身によって守られているとも言える。これが弱者の守りということだ。
さて、そんなリスクを伴う爆破は避けるとしてそれ以外の手段となると選択はほぼ正攻法に鎮圧ということになる。
説明が長くなったが、ジオン共和国の軍人、兵士は現在、宇宙戦力よりもコロニーを守るための自警団に近い。図らずしもジオン首相が望んだ形ではある。
ただ、国防軍のあり方に関してはザビ家が勝利したと聞いているのでおそらく秘密裏に準備しているのだろう。
つまり現在俺達がやっているのは昔ながらの市街戦の訓練である。
士官学校だけあって一兵士としての基礎から指揮の基本小隊指揮、応用の中隊指揮までの教導が行われ、今は中隊指揮の教導中だ。
「突撃!!」
俺の号令で部隊が動き出す。
声の勢いと同じように部隊は素早く、しかしその動きは先程世紀末な叫びを上げていたとは思えないほど機敏で統制が取れた連携をしているのが見て取れる。
まぁ本当のところはあの声を出すように俺の指示によるものだ。
冒頭に戻るが、己と敵を知れば目的が達成しやすい。これを俺はわかりやすい形で実戦しているからに他ならない。
俺の性格や癖を把握して長所を活かし、短所を補う。対戦相手の情報を入手して短所を攻め、長所を殺す。
俺は自分の意識の上では攻守どちらもできるつもりだが、成績や模擬戦データなどから分析した結果攻の方が得意なようなのでそれを意識している。
そして今回の敵は良くも悪くも基本に忠実なタイプなので部隊には既に策を与えてあるので後は待つだけという状況だ。
ちなみに指揮官が戦闘に参加することは禁じられていないため参加しようと思えばできるが俺は優雅に座って待たせてもらう。
世紀末風の掛け声とこの動かないボス感を出すことで周りには俺がそういう人間なのだと認識させるようにしているのだ。
ちなみに日頃からそういうイメージで動くようにしている。幼い頃から自分を隠してきた俺だからこそできる猫かぶりだ。猫というほど可愛いものではないがな。
そして6分が過ぎたあたりで模擬戦が終了を知らせるブザーが鳴り響く。
勝利条件が部隊の全滅と制限時間の経過だが俺が生存、そして制限時間は30分も過ぎていない。
つまり――
「また勝ってしまったか」
キャラクター付けでわざとらしく格好つけて言ってみた……が、なぜか周りにはウケが良いのが逆に不安だ。主に馬鹿にされている気がして。
ついでに言えば小隊以上の指揮での勝率は8割と
「ガハハ、相変わらずだな」
「ビッターさんの方はどうだった」
「問題ない」
彼はノイエン・ビッター、2代で成り上がった大企業の2代目の社長だったんだがまだ若いのに息子に社長を譲って国防軍に入隊を決めたそうだ。
なかなか気骨のある御仁である。蛮勇と紙一重な気がするが細かいことは気にしない。なにせ寮生活における同居人であるからだ。
「それにしても攻撃に傾倒しておるのは知っておるがさすがにビルから降下しての奇襲はさすがにやりすぎではないか。実戦では使えんだろう」
ビルからの降下奇襲なんて遮蔽物がないため対応されたなら大損害必至で、その上にバランスが取りにくいため練度も必要と、本物の戦場ではまず使わない戦法だろう。
「今回の担当官がこういうのが好きだから評価はされるはずだ」
「抜け目がないやつだな。ぜひ社員にならないか」
「俺は高いぜ?こんなでもいいところの坊っちゃんだからな」
「安心するといい。給料分以上働かせてやるぞ」
「ブラック企業は遠慮願うね」
会話で分かる通りに幸い仲良くやっている。
それにやはり年の功というのは確実にあり、ビッターさんは人脈の構築に優れていてそれに助けられることもしばしば。
ビッターさんなら上司でも信じて働けそうだ。
逆に今回の対戦相手は型にはまりすぎて上司にはゴメンなタイプだな。