第四十一話
メイ軍曹が言うだけあってジオニックのMSは抜き打ち出撃には分解されて嘆いていたオルテガがコクピットに乗り込み、メカニックが外部で簡易チェックを終わらせると5分と経たずに発進し、急遽指示したコースにも関わらず、過去の試験データから推測されたタイムより早くゴールした。
その後も整備を行ったが特に問題は報告されてこなかった。
「タイムが早かったのはパイロットの腕によるところが大きいようだが、その点を差し引いても良い機体に仕上がってきているようだな」
「ええ、ギレン閣下に良い報告ができそうですね」
と嬉しそうな声の中に安堵を潜ませていうシンシア少佐。
どうもここに来る切っ掛けとなったキシリアとの諍いでギレンさんとの関係に悪影響が出たのではないかと疑っている……とまではいかなくとも多少の溝ができたと思っても仕方ないだろう。
まぁ事実としては俺とギレンさんではなくて、ギレンさんとキシリアの溝が深まっただけなんだが……これはいくら言っても解消されないことだから言わないけどな。むしろ言葉を重ねるだけ不安を煽るだけだからな。
「しかし、ツィマッドのMSは……」
……うん、色々と大変なようだ。
MSの分解や組み立ては思ったよりも早かった。ジオニックのMSよりも劣るが許容範囲内だ。
しかし、抜き打ち出撃の際にはかなり時間がかかった。
厳密には発進自体はできるのだが、念には念を入れて点検をしている。やはりというか、メカニックの動きを見ているだけでわかるほどの偏りが生まれるほどに一箇所に集中している。
集中しているのはもちろん木星エンジンだ。
コンペティションでこそないものの試験には違いない。整備性能の試験なのだから時間を競うようなものだから焦りそうなものだが、事故が起きれば印象が悪くなると考えているようだ。これが俺の助言によるものか最初から意識しているかは知らないが良いことではある。
不安材料である木星エンジンは推進器である以上、動作不良を起こせば機能停止は良い方で、最悪爆発、他にも暴走して宇宙の彼方へ直進なんてことになりかねない。しかも加速性能はジオニックのMSよりも上だからな。捕まえるには苦労するだろうし、捕まえた時にはパイロットは酸欠で死んでいるだろう。
ちなみにツィマッドのMSのテストパイロットはランバ・ラルが務めている。うちの有能な部下に消えられてもこまるから試験より安全を重視する姿勢は個人的には高評価だ。
「といっても贔屓はしないがな」
容赦なく減点……したが、発進してからは――
「さすがの性能だな」
その圧倒的な加速性、機動性でジオニックのMSの記録を大幅に上回る。
実際見てみたら精鋭機もいいが、常に整備が行き届かせることができる基地防衛に向いているかもしれんな。部品の補充も機体の維持も整備への人員も割けるだろう。
結果は前評判通り、性能面ではツィマッド、実用面ではジオニックという感じになった。
ツィマッドの言っていたとおり、競合相手はいたほうがいいな。良い緊張感だ。
「そういえばMIPがここに来るのも近いか……」
ペズンで行われる兵器試験は何もMSだけではない。
MIPのMAも当然行う……のだが、どうもMAの開発が思わしくなく、ペズンに試作機を入れるのが遅れている。
まぁ主力兵器からはずれればモチベーションが下がるわなぁ。