第四十二話
まぁ試験結果はまとめると両社のMS開発は課題があるものの順調だということがわかった。
それを伝えると両者ともに安堵し……その後、互いに睨み合ってたのは……仕方ないか。妨害工作の類がなければ問題なし。
んで、しばらくするとMIPもペズンに到着。
そして――
「こりゃなかなかのサプライズだねぇ」
MAは主戦力として外されたのは間違いない。
間違いないが――
「MIPも気合い入れてるな」
以前のコンペティションで見た時よりも大型化しているがそれ以上の機動力を手に入れているようだ。
手元にある資料を見るとツィマッドとMIPは業務提携を行ったようだ。もちろんその目的は打倒ジオニックだろう。
木星エンジンではないようだがツィマッドは随分とその強みを見せつけることに成功しているな。
それに加え、コンペティションではMSの最大の特徴であるAMBACシステムを導入していないことで反転による推進剤を多く使用してしまう欠点も多少改善されたようで、主力兵器と考えずに一撃離脱を前提とすれば、悪くない。
まだ機密どころかギレンさん曰く、ギレンさんと俺以外には知らせていない計画として戦争へ踏み切るしかないと判断した時には核兵器の使用がほぼ決定している。
連邦の主力であるマゼラン級やサラミス級などの艦には通常兵器では戦うことはできても効率が悪すぎる。
連邦はその気になれば艦を俺達が用意する機動戦力よりも用意することができるという推測がされている。
そんな戦力差で一隻に時間を掛けていては勝てるわけがない。だからと言って艦すらも容易く落とせるビーム兵器を機動戦力に導入できるほどの時間的余裕があるとは思えない。
だからこそ、核兵器という単純な暴力で効率化を図る。そもそも宇宙での核兵器は特に害が少ないので(コロニーは対策されているし地球にも影響はない)特に問題はない。
ちなみに連邦が核兵器を使った場合は自分達のことは棚上げしてガンガン法を犯したことを責める予定だ。
話を戻すとして、MIPのMAはその核兵器を用いるのに最適な気がする。
現状、MSに核兵器を使わせる予定だが、問題は密かに計算させたがどうも核兵器を使うにはMSの装甲では放射能を防ぎ切れなさそうだということだ。もちろん追加装甲などを施せば解決するだろうがそうなるとせっかくの強みである機動性や運動性が落ちてしまう。
その点、MAなら試作段階である現段階でもパイロットの安全性は保て……保て――
「ん?!」
あることに気づき、慌ててジオニック、ツィマッド両社のMSの設計データを取り出して確認したんだが……マジか。
「こりゃマズイか?いや、試作段階だから……いやいや、試作段階だからこそ必要だろ」
「何があったのですか?随分慌てていらっしゃいますが」
「それがな。どうもMSには脱出機構がないみたいなんだ」
「……本当……ですね。信じられません」
信じられないよな。
新型兵器を開発しているのに脱出機構がただのハッチパージだけというのは。
普通に考えれば新型兵器なんて動作不良のオンパレードで、暴走なんかも少なからずある。実際ペズンが本格稼働し始めてから4度ほど短い時間ではあるが制御不能に陥ったと報告が来ている。もうちょっと安全面に配慮してもはずだ。
…………ああ、そうか。もしかするとMSの原点が宇宙作業機であることが影響しているのか?宇宙作業機はそもそも安全を配慮するほどの複雑な作りにはなっていない。地球で言うところの掘削用建設機械のようなもので安全装置らしい安全装置はほとんど施されていない……らしい。精々がそもそもそれほど速度が出ないように作られていることぐらいだとか。
そんな状態でも事故はほとんどなかったわけで、そこから進化させたMSも同じような感じで開発を進めていた、とか?
いや、まぁジオニックやツィマッドだけを責めるのはお門違いだけどな。こっちだって気づかなかった、もしくは指摘しなかったわけだし。
その点で言うとMIPのMAは戦闘機を土台としているから射出座席であり、簡易的ながら座席自体にスラスターを装備しているからパイロットの安心度が違うようだ。
「これは改善要求しておくべきだろうな」
「はい。こちらで手配しておきます」
「よろしく頼むよ。シンシア少佐。こっちは――」
「ギレン閣下に、ですね」
「ああ」
なんというか……やっぱり俺達は素人から毛が生えた程度の存在なんだろうな。こんなことにすぐ気づけないんだから。