第四十三話
脱出機構はパイロットの生存率に繋がる。
金と資源さえ掛ければ無理が利く兵器とは違って人間は育てるのに時間がかかる。
本当に時間がかかる。
いや、マジで。
じゃなけりゃ社二病なんてものはない。2年で一人前になるんだったら苦労せんわ!
まぁ、この年(22)で基地の司令なんかになっちゃってる俺が言っても説得力がないけどな!それに国自体が絶賛中二病を患ってるようなもんだから已む無しか。
それはともかく、本当に時間がかかる。
更に付け加えれば適性もなぁ……宇宙戦闘はお互いが見える暗闇で戦うようなものだからなぁ。空間認識能力もいるし、暗闇に負けない心も必要だ。
実は今回のことで気になって調べ直したことがある。
連邦宇宙軍の大艦巨砲主義、これは実のところそうせざるを得なかったという側面もあったらしいということが判明した。
昔は貧困層の就職口と言えば軍人、なんて話もあったが今は過去のもの。
まず宇宙軍に関しては学力がないと軍人にはなれない。
なにせ陸軍の歩兵というのは最悪徴兵した民兵を促成栽培させればどうとでもできるが、宇宙軍では何をするにしても敵の有無に関係なく一歩間違えれば生死に関わる。
前例がない宇宙軍だが類似した存在があった。
それは海軍の潜水艦だろう。
そして潜水艦はエリート、エキスパートが多いのは長い間狭い空間で生活しなければならない精神が求められ、整備を怠ったり、音一つで命取りになるため規律性も必要だ。
そんな存在をいくら連邦が強大であっても消耗が激しい機動兵器に採用するのは難しかったので大艦巨砲主義へと舵を切ることになったみたいだ。
更にジオン公国の件で宇宙と慣れ親しむスペースノイドを信用できず、アースノイド優遇で編成されているのだからその質は今ひとつ。
つまり連邦に対して唯一確実に有利と言える長所は地の利(地面ないけど)を活かせる人材ということだ。
「そんな人材を使い捨てるつもりだなんて随分贅沢になったもんだな。うちは」
というかジオニックの方はともかく、ツィマッドはもう少し対策しておけよ。お前んとこはいい加減機体が不安定なんだからな。
ちなみにギレンさんに報告したら5人ほど降格、10人ほど異動があったらしい。そらこんな失態を晒せば当然だ。ついでに言えばジオニックやツィマッドの開発陣は減俸されたらしく絶望の声を上げたらしい……家族が。
なんというか思ったとおりというかなんというか開発陣は変人奇人ばかりで給料減らされた程度で屁でもない奴らばっかだったようだ。
それを聞いたギレンさんは――
「呆れる反面、心強いものだな」
と苦笑いを浮かべながらも仕方ねー奴らだな的な感じで言っていた。まぁ次に出た言葉は――
「それに今まで気づかぬ私も大したことはないのかもしれんな」
これを聞いた瞬間、ギレンさんが地味に凹んでることを悟った。ドンマイ。慰めの言葉は掛けなかったぜ。いらぬ情けは惨めさを倍増させるからな。特にギレンさんはプライド高いし。
「しかし、唯一勝るものが人材……才能か……」
青田買いが必要かねぇ?国力差を考えれば手段を選ぶ余裕はない。
過去の大戦から推察するに俺達の勝ち筋は多くない。
もっとも勝率が高いのは決戦による勝利からの独立、次点で…………それが思い浮かばねーんだよなぁ。泥沼化すればこっちの負け、長引けばこっちの負け。
引き分け狙いで地球を本当にギリギリまで破壊して地球連邦の土台を崩してやるって方法もあるが本当に最終手段だし……まだ各サイドは自立して成り立つほど成熟してないし。
「決戦……耐えれて3回か?」
国力差が本当に嫌になる。
こっちは3回『勝つ』ことまでが限界だ。1度でも負けたら終わりだ。
それに比べて連邦は3回負けてもまだ戦うことそのものはできるだろう。まぁさすがに3回負ければ世論が認めないはずだが……いや、しかし、支配者という自負している地球連邦が受け入れるかねぇ?あー、胃が痛い。
それはともかく、1度も負けたら終わりなら多少非合法な手段でもやっておくべきだろう。
「サポート頼むぞ。シンシア少佐」
「お任せください。ユーリ大佐」