第四十四話
機動兵器はその性能も重要だがパイロットの技量も求められる。
しかし、現在のMSは機密であり、知られているのは軍人でも本当に一部しかいない。
軍人は扱いがかなり難しい職種だ。
上意下達、絶対服従的なイメージをされがちだが所詮それは一般人と比べただけで軍人とはある種のスペシャリストだ。そしてスペシャリストが扱いやすいわけがない。
まず人の権利を有する。ついで考える能力がある。そして自身の価値を(過剰だったりするが)知っている。
人権なんて命を張る軍人には薄そうだが、究極的には『辞める権利』があるのが問題なんだよなぁ。軍機を知って辞められると面倒だし、そうでなくても反抗的だったりすると監視しなくてはならない。
その点、ランバ・ラルは使い勝手が良い。ダイクン派だから最初から監視対象だし、本人も自覚しているし、辞める権利なんてものはない。政治家というのは1度舞台に上がると降りられない業が深い職業だからな……まぁ厳密に言えば父親のジンバ・ラルが政治家だっただけなんだが、政治家って家系まで影響を及ぼすからな。世襲制が嫌われながらも続いている所以だ。
それはともかく、つまり何が言いたいかというと正規の軍人は都合のいい人間ではないんだ。
本当に都合がいい人間というのは居場所がない、逃げ場所がない、金がない、人間関係が薄い、消えても困らないようなやつだ。
ブラック企業戦士や奴隷なんかがそれに当たる。
というわけで――
「さすがスラムコロニーなんて呼ばれてるマハルだな。大漁大漁っと」
前にも言ったが元々コロニーは地球から棄民された者達が多い。棄民されたのはほとんどは貧困層だから当然スラム街ならぬスラムコロニーみたいなものも存在するのは事実だが、ここまで貧困層が多いコロニーはあまりないな。
ちなみにマハルは総人口が150万人……ってことになってるが、これはあくまで『登録されている人口』だから注意。
コロニー1基で工業系でなければ最低1000万人、住居系のコロニーなら4000万人、大型コロニーなら5000万人は収容できるんだぜ。
まぁ一応観光用コロニーならその限りではないが……スラムコロニーなんて名称がつくようなコロニーが観光用なわけもない。
つまり残りはジオン公国民として登録されていないことから最低でも800万人は――いや、この空気の淀みから察するに人口過多で大気循環システムの許容量をオーバーしているから起こっているのだからもっと多い、1000万人以上はいるだろう。
そんな国民ではない人間達に俺は救いの手(血染め)を差し伸べている。
パイロットの適性判断用シミュレータを持ち込み、宇宙作業機パイロット募集というのが名目だ。
ちなみに年齢制限は13~15歳という労働基準法に喧嘩を売るような条件だが、決して俺の趣味趣向ではない。
ギレンさんが連邦と戦争をするなら理想は3~4年後という計画している。それならその頃に実戦投入できる年齢の貧困層を洗脳……育成をしておこうと考えたわけだ。
やり方は人身売買のそれだが気にするな。少なくともここではそんな健全な人間はいない。
それに一応選択の自由は与えているし、な?まぁ選択後に自由はまったくないが。
「にしても化け物じみた成績を出す奴らがいるな」
シミュレータは厳密には宇宙戦闘適性を見るもので結果は数字で出るんだが……中にはテストパイロットとして訓練された現在のランバ・ラルやガイア達に匹敵する子供が何人かいるというのだから信じられない。
もちろんMSの適性ではないし、実機では劣るだろうが素質というレベルで収めてしまっていいもんだろうか。
「まさか人類が宇宙に適応した個体……とか……うわ、なんか面倒なフレーズだぞ?!」
こんな言葉を使ってしまえばダイクン派がまた騒ぎ出す可能性がある。勘弁してくれ、これをニュータイプなんて言い始めたら、今度はニュータイプと旧人類……オールドタイプとでも言うか?……の争いが始まりそうだ。
そうなったらもうグダグダになっちまうぞ。