第四十五話
子供達……というには逞しすぎるが……を雇った数は50人。
初回ということもあるし、今回の雇用は軍ではなく俺個人となることから本来はこれほどの数にするつもりはなかった。しかし、化け物のような成績を叩き出した人材が複数いたことで少し欲張っちまった。
ちなみに俺、幾つか会社持っていて金には困っていないからこのぐらいの人間を抱えるぐらいは問題ない。
まぁ会社を持っているとは言っても俺が起業したとかそういうことじゃなくて15歳の誕生日に貴族の嗜みとしてプレゼントされたものを拡大したものだ。
さすが貴族、庶民にはわからん感覚だったぜ……今となっては立派な貴族だと自負しているがな。
それに俺がやったことは基本方針を決めるだけで特別な何かをしているわけじゃないからたまに社長であることを忘れていることがあるくらいだ……お得意様が軍だったりするけどな。
「――にしても凄いな」
買ってきた者達に首輪もつけ、ペズンへ連れて行き、まだOSや素体が出来上がっていないためマズイMSシミュレータだが、開発の手助けとしては役に立つということで操作方法を一通り教えて乗せて、そこから収集されたデータを見ると大半は予想の範疇だった。
しかし、その予想を大きく上回る存在もいた。
確かに適性シミュレータの段階から異才を放ってはいたが、ここまでとは思わなかった。
「こりゃツィマッドのMSの仕様を更に変更せにゃならんか?」
ツィマッドのMSは機動性に優れた機体ではある。もちろん運動性……機体の追従性や旋回速度などもジオニックのMSよりも上回っているが、機動性を重視しているために機動性ほどの格別した性能というほどではない。
まだ開発段階だからというのもあるが、整備性を重視した結果だから仕方ない面もあるし何より、そもそもそれほど運動性を上げても操縦することができるのかが不明なのだ。
スナイパーライフルの狙撃は4200m程度の距離で命中した記録があるが、なら射程が5000mや6000mのスナイパーライフルがあったとして扱える人間がいるのかどうかというとわからないのと同じだ。
そもそもその4200mも実戦で使用したものではなく、的に対して狙ったものだから実戦で使えるかどうかはまた別の話だ。
そして現状作られているMSは開発途上である以上、人間が何処まで扱えるのかの上限がわからないのだ。
とはいえ、それはもっと訓練を重ねて現れる壁だと俺も開発者も思っていたわけだが――
「Gが掛からないシミュレータだからという点を差し引いてもこの反応速度はちょっと普通じゃないな」
ツィマッドにはもう少し上限を引き上げるように打診しておくか。こういうことは前々から言っておかないと今回ので間に合わなかったとしても次回のには間に合わせられないからな。
あれから3ヶ月ほど経った。
さて、月日が経てば色々進歩するもので、日に日に買った子達、通称ハウンドと呼ばれ――飼い犬で狩り(戦闘)が専門だから――るようになるぐらいには実力が認められるようになった。まぁ蔑称でもあるが、本人達はかっこいいと言って気に入っているので正式名称とした。
そしてハウンドの実力は実機に乗った当初こそGに負けていたがなかなか反骨精神が強いらしく、こちらが何か言う前に訓練してくれと言ってきたのには感心したもんだ。
ちなみに正式なテストパイロットであるランバ・ラル達やジオニック出向のエリオット・レム、ツィマッド出向のジャン・リュック・デュバルなどは若い追撃者の足音に焦っていたな。
もっともハウンドは軍人ではなく、MSパイロットでしかないから軍人としては半人前以下だけどな。
しかしそんな競い合いもあった結果、予定よりも早く両社のMSは最終試験型まで進んだ。
それに従って名前も正式に決まった。
ジオニックのMSはザク、ツィマッドのMSはヅダというらしい。
両方とも2文字で呼びやすくていい。
そしてこの完成を目処にコンペティションが3ヶ月後に開催されることが決定した……が内々で量産型MSはザクで、ヅダは特殊機として少数生産が決定されている。
ならなんのためのコンペティションかというと……まぁ簡単に言ってしまえばお披露目会、つまり規制レベルを下げるということある。
ちなみにMIPのMAは意地でもメガ粒子砲を搭載しようとしているらしいのだがなかなか上手く行かずにいるらしい……そもそもMAとしての素体はほぼ完成しているからのようだ。