第四十九話
軽巡洋艦の仮設計図が届いた。
思った以上に珍妙な艦ができたな。
「主砲を多く配置するために高くしたのか……ミノフスキー粒子で有視界戦闘を前提にしているとはいえ、随分と艦橋が目立つな」
軽巡洋艦には既に名が与えられ、ムサイ級というらしい。
素案がほぼそのまま通ったようでMSの運搬能力と対艦戦闘に特化した形なんだろうがまるでヒール部分が二股に割れたハイヒールみたいになっている。
確かに高さを出せば主砲を多く並べることができるし、天頂部に設置すれば視界も確保されるが……非断面積的な意味で防御性に不安があるんだが。いくら対艦メインだからといって、いや、むしろ対艦がメインだから被弾面積の増加はやばくないか?まぁ主砲が連装メガ粒子砲が4基あるから攻撃力は十分なんだが……薄い刃物って感じで怖いな。
(正史ではムサイ級の連装メガ粒子砲の数は3基だが、ミノフスキー博士亡命阻止により核融合炉とビーム兵器全般の技術が向上していたため基数が増え、出力も上昇。ただしコストは2割増)
それに……マジで近接防御火器が全然ないでやんの。
これって単艦任務とか少数任務できないだろ。基本連邦の方が質はともかく数が多いんだから対応できないだろ……って、ああ、相手もコロンブス級を連れてなければ対して機動兵力なんて高が知れているか。
なるほど、利にはかなっているのか。まぁ問題は連邦軍の対処が簡単なことだな。
対処方法?単純に更に数を増やせばいいんだよ。
今の連邦宇宙軍は利権とスペースノイド不信でアースノイドオンリーだが、その気になればスペースノイドを投入してしまえば数は賄えるはずだ。
あ、話は逸れるがそんな関係で連邦軍に所属するスペースノイドの中には当然ジオン公国のスパイも多く存在するから連邦の不安は正しい。
「このムサイ級とやらで制宙権を確保すると連邦も対策とってきた場合こっちは対応できるかねぇ?」
ムサイ級の打たれ弱さは後々改善できない。もっとも簡単な改善方法は結局数を増やすってことになるだろうが数を競って連邦に勝てるわけねーしなぁ。
個人的には近接防御に特化した護衛艦が必要だと思うんだが……実は、そこには問題がある。
実のところ、近接防御火器がオミットされたのは機動兵器に対して有効とは言えないから、というのもあるがそれ以外にも理由がある。
近接防御火器というのは実弾兵器なんだが、それは同じ数だけ高速デブリを生み出すということにもなることが問題なのだ。
宇宙は広い。広いから確率的には低い……低いが、戦争に使われる弾や撃破されたデブリは一体どれだけの数が生まれるか。
そして最悪なことに宇宙は無重力で速度は落ちない。惑星なんかの重力に影響を受けて方向が変わることは度々起こる。
だからこそコロニーにはデブリを防ぐための迎撃システムが多く設置されいる……のだが、銃弾のような高速で極小のデブリを迎撃するのはできなくはないが、万が一複数同時に飛来した場合は迎撃できないかもしれない。
まぁ杞憂と言えば杞憂なんだが、自分達が守ろうとしているものを自分達で破壊するかもしれないと考えれば使う気になれないって話だ。