第五十一話
とりあえず、ハウンドの予備機兼訓練用にとヅダ2機を追加購入を決定し、それが手元に届くのと同時に――
「思ったよりもこっちに回されるの早かったなー」
俺の目の前には我らがジオン公国の顔となったMS・ザクが並んでいる。その数は12機。
言ったとおりうちには既にヅダ8機あるんで最低限の数も揃っていないザクがうちに配備されるのはまだまだ先だと思っていたんだがギレンさん直々に送ってくれた。
ドズル中佐の教導から比べると成績がいいハウンド達のデータが欲しいといったところだろうな。正式に採用となったザクはハウンド達もまだ乗ったことがないからな。
まぁプロトタイプとは違って危険は少ないから死ぬようなことにはならない……はずだ。MSが不具合を起こして行動不能にでも陥ったら救助されるか死ぬかの2択しかない奴らだからなぁ~。
順序が逆になったが急ぎだった基礎データ収集も終わったからこれから最低限の生きる術を学ばせるかな。あまりいらん知識をつけさせると面倒な人権まで戻っちまわないように気を使わんといかんな。
「さて、MSが増えた代わりにハウンドが減ったからまた拾ってこなくちゃなぁ。可愛い子犬ちゃんを!」
さすがに悪いと思ってギレンさんにハウンドを半数、25人を渡した。
そもそも50人のパイロットというのは予備を込みにしても1艦隊には多すぎる。
ジオン公国の国力から計算すると戦争を始めるまでに500機程度……ルナリアン達がどう動くか次第で増減するが、それはともかく500という数の内50というのは約10%だ。
まさかいくら俺がギレンさんの縁故があると言ってもそれほどの戦力を保有を許されない。主に階級的に。
おそらく俺は戦時に移行すれば准将に繰り上がるはずだが、それまでは昇進はない。悪く言えば短絡的、良く言えば素直なドズル中佐はいいが本物か演技かはさておき、お山の大将か、月の傀儡を絶賛爆走中の階級を上げすぎるのは得策ではない。
だからこそ先任の俺を大佐に留めることでキシリアの昇進を遅らせることができる。
というわけで俺はそんなに大規模な艦隊を連れるのは戦時になってからだということだ。
だから今からハウンド全員に与えるMSを確保することはできない。そもそも准将になったところで平時ではそれほどのMSを実働させる機会なんてないけどな。
「雑種でいいから強い子犬がいりゃいいんだが――」
「と思ってたんだがなぁ。誰も成犬(年寄り)に興味ないんだが?」
「あ、いえ、その……」
「しかもそれを俺の目の前まで連れてくるたぁいい度胸だ」
ろくな言い訳も用意できず、規則も破る……こいつは飛ばすかな。それなりの奴はそれなりの場所へ。適材適所だ。
「さっきから話を聞いてたら好き放題言ってくれるじゃないか。ここは児童性愛者しかいないのかい」
なるほど、確かに子供ばかり連れて行く集団だから間違いではないか?それに全くいないではないし。
「発言を許した覚えはないが……まぁ軍属でもない(躾されていない)人間(犬)だから許す」
「なんだい。やっぱり軍属だったのか、ねぇあんた。私を雇わないかい?能力はそこそこあるつもりだよ」
「……そのようだな」
こんな対象外の成犬にも関わらず、手元の資料にはきっちりこの成犬のデータが記載されていて、その内容も基準値を大きく上回っている。うちのハウンドの5人よりはさすがに落ちるがな。
問題は年齢だけ……のように思えるが俺としては――
「やめておけ、シーマ・ガラハウ」
決定的な問題が見えている。