第五十三話
「……ッ!ちょっと待ちな!あんた達は年端も行かない子供を集めて――」
「もちろん兵士として……いや、兵器として躾中だ」
「(ギリッ)――ゲスが」
「そのとおり、外道クズ鬼畜だな。道徳的に言えばまず間違いなく地獄行きだろうさ。これが軍人……いや、国の飼い犬になるってことだ」
まぁ俺の場合は主導している立場なので余計にたちが悪い存在ではあるがな。
「――」
ここに至って目の前のお嬢さんは自分が危機的状況であることを理解したらしく、わずかに表情が険しくなったのが見て取れた。
まぁ公的マフィアが如き存在を目の前に、1人の一般市民が機密を知ってしまったとなったらどうなるか……口封じはもちろんだが、それが永眠とするか金で閉ざさせるか、後者ならいいだろうがマハルの貧民街の住人が程度なら金などという曖昧なものなどより永眠させた方がリスクが低いというのはシーマ自身わかっているだろう。実際そちらの方が手早いのも確かだ。
ただ年齢が対象外にも関わらず俺まで通されただけあってMSの適性はハウンドのエース達には劣るが予備達よりも優る数値である以上ただ消すというのも勿体ないという思いもある。
もっとももし俺の言葉を真に受けてすぐに身を引いたなら問答無用で消していたんだが……命拾いしたな。
「とりあえず体験入隊してみるか」
もしこれを断るようなら消すことになるが――
「ちっ、虎穴に入らずんばってレベルじゃないところに足を踏み入れちまったみたいだねぇ」
「軍隊が虎なんて可愛い存在なわけがないだろ」
たかが肉食獣の巣穴に人間の研ぎ澄まされたトラップだらけの魔窟に勝てるわけがない。
ああ、スラムというある種のわかりやすい社会の弊害かもしれないな……弊害と言っていいかは疑問だが。
とりあえず、子犬ではなく成犬を拾うことになっちまった。
まぁうまく利用すればハウンドの躾も楽にできる……かもしれない。
シーマ・ガラハウは結局ペズンへ連れ帰った。
しばらくは訓練に漬けとなるだろうが、彼女には特別な仕事を任せることにした。
それは――
「というわけでシンシア少佐の護衛をしてもらう」
シンシア少佐はある意味俺以上に無茶な駆け引きを行っている。それは内外変わらず、だ。
そんな状態で単独行動をさせるのはかなり危険だと前々から思っていた。故に、今回シーマ・ガラハウには彼女の護衛を任せることにした。
「私が人を護る仕事……ねぇ?」
「難しく考える必要はない。いざという時は肉壁になり、肉片になりたくなければやり返せばいい。それだけだ」
「それができりゃ苦労はしないだろ」
と苦笑いを浮かべるシーマ。
まぁそのとおりだな。しかし、護衛がいるというだけで随分と違うはずだ。
過保護?だからどうした(キリッ)
「よろしくおねがいします」
「こっちこそよろしく」
言葉がなってないが、おいおい教え込むだろうから……シンシア少佐が。