第五十五話
シーマが部下に加わり、2週間ほど経った。
シンシア少佐によるスパルタ訓練で短時間なら新米佐官に見える程度にはなった……らしい。
まぁシンシア少佐の護衛として使っている以上、俺がそれを目にする機会は少ない。
俺がよく見るのはハウンドと共にMS訓練をしている時だ。
最初はマハル出身の大人であることに不審感を抱いていたハウンドだったがシーマの母性??に今では懐いているようだし、シーマも満更でもないっぽいから今の所は問題ない。
ハウンドは能力だけみれば化け物級、しかし所詮子供は子供。親のような存在を求めていたんだろう。
俺はそんな柄じゃないし、シンシア少佐は多忙な上に生まれが違い過ぎる……生粋のお嬢様とスラムの子供達では合わないのも当然だな。
問題があるとすれば戦場にハウンドを立たせた時か誰かが戦死した時だろうな。
「しかし、データでわかってはいたがシーマのMS適性はなかなかのもんだな」
ハウンドの化け物級5人には当然及ばんが、他のハウンドとは経験の差があるにも関わらずいい勝負をしている。
こうなっている要因としては才能云々ではなく戦術、考え方の違いが出ているようだ。
ハウンドはこういってはなんだが自分自身の才能を土台とした戦い方をしているのに対してシーマは相手が嫌がることを突くという戦い方で経験差を埋めている。
簡単に言えばMS戦闘ではハウンドに分があるが喧嘩に関して言えばシーマに分があるという感じだ。
ちなみにドズルのところで正式結成される教導隊と交流戦を行ったんだが……めっちゃドズルに睨まれちゃったんだよなぁ。ついでに取り巻きにも。
いやー、ドズルくんが本気で来いやーって言ってたからハウンドには遠慮はいらないって伝えたら気合い入って小隊では完勝、2個小隊で2機中破判定で勝利と精鋭特殊部隊として活動するなら上々の成績だったので俺は満足してたんだがシンシア少佐に脇を小突かれて気づいたんだ。
「あ、やりすぎた」
ってな。
ちなみにギレンさんは巧妙に隠していたが肩が揺れてたの知ってるからな?笑うのこらえてただろ。
いやいや、むしろ俺が被害者だ。言われた通りに任務を熟した軍人の鏡だぜ?……え?忖度?……知らないコトバだな。
しかし、このままではさすがに気まずいと思い、急遽予定にない選考メンバー以外でもう1戦するように提案、そして満場一致で可決、受理された。
……まぁ実はここからが本番なんだけどな。
前と同じように2個小隊での模擬戦となり、相手はザクばかりなのにヅダで統一しているのはどうかと思って全機ザクに変更し、パイロットもシーマとハウンドの予備の中位に替えた。
結果から言うと……勝っちゃったんだなぁ。一応生き残り2機小破まで削られていることからギリギリの勝利ということになる。
いやー、年長ではあってもMSパイロット歴は1番短い新米のシーマが3機撃破したのは驚きだったな。
相手の強みを消し、弱みを突く。
マニュアル化された軍人、才能に頼るところが大きいハウンドとはまた違ったスタイルだ。
このスタイルはハウンドの精練に役立つことだろう。
……で、ドズル達は接戦ではあっても教導隊という先を征く者として3つの敗北に苦々しい表情をしていた。
だから俺は被害者だって……と言っても通じないのはわかっている。しかし、このまま放置するのは新設の教導隊の士気に関わる。
というわけで――
「フッ」
鼻で笑ってやった。もちろんわざとだ。
そして結果はどうなるか……ま、俺達憎しで意思統一がなされて士気が上がった。比例して俺のストレスは溜まる一方だがな。
……ところでそこの眉なし、呆れたようにやれやれと頭を振り、手を動かす……が、俺は知っている。上げた手が震えていたこと、そしてそれを誤魔化すかのように俺達には表情を読みとられないように後ろに向き直ったよな?わかってるんだぞ。