第五十六話
まぁ俺の失敗談はともかくとしてシーマは新米にも関わらず随分と才を発揮しているということだ。
それはハウンドにもいい刺激になっている。
身内との訓練が多い上にMSの開発のためにデータ取りをしていたとはいえ、ペズンに来てからは訓練のほとんどは身内とばかりで結果的に才能頼りの戦い方から少しずつ変化していて粘り強さを手に入れつつある。
遊撃艦隊としての運用が前提である以上は物資の手配はともかくとして人員の補充はハウンドは俺の私兵扱いである以上難しい。
一応26人いるが、MSは予備機も含めれば20機保有しているため全力出撃した場合、予備パイロットは6人しかいないことになる。
戦場に出れば戦死以外にも負傷することも病気にかかることもあるだろうから予備人員の確保と人員損失の可能性を減らすことは大事だ。
実は高速艦であるチベ級はその高速移動故に事故が発生することが多々ある。整備中のMSの部品が散らばったり、人同士の衝突などだ。
一応対策はして防止には務めているがそれでも0とはならない。
これがもし本当の戦闘機動となればどうなるかと思うと頭が痛い。
何よりギレンさんがまたハウンドを引き抜きを言い出さないとは限らない。
戦時に突入するまでには艦隊を満載にして出撃させるだけの数(チベ級1隻MS8機で3隻編成なので24機)とその予備に5人ほどは確保したい。そんなにMSを確保できるかどうかは別問題だが、大規模戦場なら他の艦隊のMSを収容することもあるし、それを修理して使うこともあるだろう。
ちなみにそれならなぜシーマ以外に拾ってこなかったのかというとただ単にいい素質を持つやつがいなかったってだけだ。
精鋭化しているウチには化け物級5人ほどではないにしても年齢や教育以上に素質重視だからな。
まぁだからこそ年をとってるシーマを――
「なんか言ったかい?」
「いや、シーマはなかなか有能だなって思ってな」
「ええ、パイロットとしての操縦技術だけは優秀ですね。操縦技術だけは」
「さて、坊主共と訓練してくるかねぇ」
「サボったら罰があることをお忘れなく」
――シーマがハウンドの化け物達がたまに思考を読むそれと同じことをしたのかと思ったんだがすごい勢いで話が流れて逃げていった。
まるでその姿は口うるさい姑から逃げる妻のよう……どちらかというと夏休みの宿題から逃げる子供か?何にしても助かった。
しかし、マハルだけでは効率が悪いか……他のところでも――
「それと大佐、ご報告が」
そう言ってシンシア少佐が書類を俺に渡しつつ報告する。
「ハウンドの例の5人に関してですが」
「なんだ。俺を殺そうとでも画策しているのか」
「もしそうなら既にあの5人を消していますから違います」
サラッと怖いことを。
「あの5人の成績があまりに異常……というより成績よりも反応そのものが異常なのでペズンの研究者が今まで得たデータを基に解析をしていたのですがある脳波が常人の何倍も発せられていることが判明し、それが起因となり空間認識能力が高まり、その脳波は他者の思考が読めるような現象を引き起こすそうです」
なんだそれは。
まさか俺、近未来に転生したのではなく、アニメの世界に転生したとでも言うのか?そうじゃなければたかが宇宙で2、3世代居着いた程度そんな能力は身に着けないだろ。
「そこで研究者からはぜひ研究させて欲しいとのことです」
「つまり5人で実験したいってわけか」
「そのように申請は出ていませんがそうなるでしょう」
そんな安い戦力じゃないのだがなぁ。