第五十八話
というわけで強化人間プロジェクト(人工ニュータイプではダイクンの提唱したニュータイプを穢してしまうため巡り巡ってザビ家にとって損であるため変更した)を開始。
まずはMS適性テストの年齢ハードルを下げる(上にも下にも)ことで対象者を増加させ、ニュータイプ能力と思われる存在の統計を取った。
結果適性は8歳~16歳と若い層の方が高いことが判明した。それ以下だと他の脳波と入り乱れて計測が困難であること、それ以上だと脳波は微弱でまだ開始間もない段階では荷が重いので対象から外れた……これにより一層業が深くなることが決定した。
科学者達もさすがに1桁の子供を実験台にするのは抵抗がある者もいたが結局は未知の探求欲に負けてしまった。うん、そうだろうとは思ってた。まぁ手を下さんでいいのは助かる。
ちなみに拾ってきた中でハウンド5人に並ぶ存在は3人で、内1人はそのハウンド5人をも凌ぐ適性を持っている。
名前はマリオン・ウェルチ、女、現在10歳だ。
このマリオンだが実は扱いに困っている。
前々から気づいてはいたが、このニュータイプと呼称するようにした存在は空間把握能力以外にも相手の感情や思考を読み取るという古代から超能力として語られるそれを保有している……らしい。
そしてハウンドの5人それでマリオンの存在を感知してしまったのだ。
幸い実験前だったからよかったが、これがもし実験中で感知された場合どんなことになっていたか。
信頼関係がどの程度できているのかは現場に張り付いているわけではない俺にはわからないが少なくとも不信感や嫌悪感は強くないはずだ。
しかし人体実験、しかも年端も行かない子供(俺から言わせりゃどっちも子供だが)を使ったとなりゃ不信感、嫌悪感が生まれただろう。
いやーMSを操縦するパイロットに嫌悪感とか抱かれたら怖い。相手がまだ子供となれば後先考えずドカン、とかやられかねんからなぁ。
こりゃペズンで非合法的な実験は難しそうだな。一応マリオン以外は感知できなかったあたり他の奴らなら問題はないとは思うが……それにしても脳波を感知して思考とか感情が読めるって厄介だな。防ぎようが今の所ない。
ということでしばらくはマイルドに実験を行うことにした。特殊能力の解明ではなく、特殊能力を伸ばす方向に調整した。
まぁ感情や思考が読める能力を自在に操れるならパイロットなんてせずとも外交に対して相当なアドバンテージを得ることができる。
海千山千の連邦に対して正道では分が悪いからな。主力兵器をMAじゃなくてMSにした経緯と同じで。
…………冷静に考えると超能力なんてものに頼ろうとしている国家って負けフラグだよなぁ。片鱗が見えているのが唯一の救いだが。
ちなみにマリオンの存在を知ったシーマが怒鳴り込んできたり、それを返り討ちにしたシンシア少佐の話は割愛しておく。
マリオンの可愛さに現場がデレデレで頭が痛くなる今日この頃だが、念願のジオン公国軍主力艦であるムサイが3隻就役した。
とは言っても連邦から見れば虚仮威しの類にしか見えないだろう。なにせメガ粒子砲は未搭載で全て昔ながらの実弾仕様だからな。
メガ粒子砲はまだ大々的に表に出すには早い。せっかくのアドバンテージだし慎重にせにゃならん。
ちなみにムサイ級は俺んところには1隻も来なかった。
全艦、就役と合わせて正式に設立された教導機動大隊に持っていかれた。当然だけどな。
それと預かってたチベ級5隻も持っていかれた。こっちは残念だったなぁ。
ま、半ば俺の私兵化してるからこれ以上は警戒されるかもしれんから無理は言えんけども。
「それにしてもこれで正式に宇宙軍の活動開始か。賑やかになりそうだな」
「教導隊の皆さんはハウンドへのリベンジに燃えているそうですよ」
「……絵面が酷いな」
本人達だけ見ると20代後半のガラが悪いやつが多い教導隊と10代半ばのハウンド……贔屓目に見てもチンピラが学生をカツアゲしているようにしか見えないな。
現実はチンピラの死体を積み上げる学生なんだけど。