第五十九話
マリオンを含む暫定ニュータイプ達がいると実験がしづらいので航行訓練を増やすことで解決した。
ちなみに思考や感情が読める以上は隠してもどこからかバレるので最初から説明済みだ。
開き直りだろうがなんだろうが、隠れてやられるのは余計に気分が悪いものだからな。
一応ニュータイプ達が帰ってくるまでには収まる程度の人体実験にするように指示してある……が人体実験だから完璧にはいかないだろうし、ジオンの科学者だから当てにならん。
もちろん説明したからといって素直に言うことを聞いたわけではなく、反発、もしくは不平不満を口にした者達がいたが――
「他人の考えていることが読める人間がいることがわかったとしてお前らはその人間と一緒に過ごすことに不安はないのか、距離を取りたいだろ?命に関わることなら殺した方がいいかもしれないと思わないのか」
――と問うと黙った。
実のところ彼らは相手の感情を読んでいるという認識は薄いから危機感がない。ないなら認識させるべきだ。
新たなる可能性なんてものは古い実績が摘み取ることなんて腐りすぎて原型がわからなくなるほどある。
つまり、この場合は――ニュータイプの解明、これさえ叶えば新たなる可能性なんていうあやふやなものから確定したものへと変化させる。
そうすれば摘み取られずに済む。
古代に行われた魔女狩りの再現なんて悪趣味だからなぁ。今更殺しに戸惑いはせんが進んでしたいわけでもない。
そういう意味ではあの変態(科学者)達には大いに期待している。
とりあえず、これで起こりそうな問題は事前に解決できた――と思ってたんだが――
「良くない知らせか?」
シンシア少佐が少し固い表情で近づいて来たので先に声を掛けた。
「はい。ギレン閣下からなのですが」
ギレン閣下からとか嫌な予感しかしないな。
渡された書類に書かれていたのは――
「ああ、クソッ。楽な戦争ってのはないのかねぇ」
連邦側にメガ粒子砲の情報が流れた、というものだった。
一応具体的な情報ではなく、あくまでジオンがメガ粒子砲やビーム兵器を研究開発しているという程度のものではあるようだが――正直に言えばこのまま順調に軍備を整えることができたのなら独立できる可能性はかなり高いと俺個人は思っていた。
その多くはメガ粒子砲とMSとミノフスキー粒子だ。
これらは既存の兵器を陳腐化させることができると踏んでいたからだ。
「ちっ……1度古巣へ帰っておくべきか?」
渡された書類の中には経緯も書かれていたが漏らしたのは1人の将官だったらしいがそれは問題ではあるがどうしようもないものではある。
しかし問題は、その漏らした相手が連邦の諜報員であることをこっちの諜報部が察知できず、捕まえることも抹殺することもできずに逃してしまったことが問題だ。
問題はこのビーム兵器開発が漏れたことで真偽を確かめるために連邦から膨大な諜報員が送り込まれてくることが予想できることだ。
「諜報員を刈り取れたなら美味しいがこちらの出血も強いられることになるからなぁ」
それに守れば守るほど真実となり、その対策も練られる。
ハァ、本当に戦争ってのは楽じゃないな。