第六十話
さすがに俺が動くにはちょっと大身になりすぎたため簡単に動くことができない。まぁジオン軍の大佐は実質将官……准将みたいなものであるため迂闊に動かせないし、動くと目立つ。
ということで――
「私が部隊を……しかもギレン閣下直轄っ!」
日頃はアンデットか?と思わないでもないキリングを推薦して少佐へと昇進して新設部隊を率いることとなった。
ちなみにその新設される部隊は――
「諜報部の監察とは大任ですな」
正直大丈夫か?と思わなくもない人事ではある。
昔よりも丸くなったギレンさんとキリング少佐だがこの2人が直接的に繋がると混ぜるな危険の文字が過るんだが……本当に大丈夫だろうか、今からでも撤回するか?いやーさすがにそれは気の毒だし向きの人材もいないんだよなぁ。
こういう『汚れ仕事』と分類されるものは自分勝手に行うのは容易いが組織で、しかもそれを管理するとなるとかなり難しい。
管理する側が汚れきってしまえばそれは組織として使い物にはならないし、汚れが足りなければ意味がない。
その点キリング少佐は……………………どう考えても汚れきりそうなんだよなぁ。染まりきっちゃいそうだよなぁ。
補佐する人員に俺の子飼いを入れておこう。
これで少しは抑止力になってくれればいいんだが……まぁ部外者の俺が一々首を突っ込むことはできないし諜報監察部なんて機密だらけだからこっちに情報を流した段階で処罰対象だしなぁ。プレッシャー程度にしかならんだろう。
定期的にギレンさんにも釘を刺しておかんといかんな。
まぁとりあえず、また1人、独り立ちしていき、人脈が広がった……と思っておこう。
「それにしても……チッ、やっぱり連邦のネズミが増えてやがるな」
ギレンさんから定期的にこちらに情報が流されてきているが、ここのところ判明しているネズミだけで3倍近い。
ついでに言えば市民にまで被害が出ている。
コロニーというのは地球から比べると空間が狭く、隔絶されていて人の流れというのは捕捉しやすい。出入国できる場所は限定的だ。
入ってきた人と出る人を数えると自ずとネズミがわかる。
さて、人数がわかったとしてネズミがホテル暮らしなんてできるわけがないし、家を借りるなんて足がつきやすい……ならどうするか。
答えは色々あるが、よく使われるのは市民を殺して成りすます、だ。
もちろん調べればわかることだが、、市民を全員調べるとなると膨大な時間、労力が掛かる。
「だからといって情報を全部遮断すると連邦側がどう動くかわからんのもな」
情報を渡さなすぎるとそれはそれでとっとと殲滅しちゃうか、とならないとも限らんからなぁ。
実際――
「MSの情報を流す、か。確かに連邦にとっちゃおもちゃみたいなもんだろうがな。二足歩行ロボットなんて」
肝心要の核融合炉を外した状態ならなおさらだわな。
既存の動力では動く棺桶にしかならんし疑われ……ん?ご丁寧にも新型動力も開発したのか。ジオンの科学者は仕事が早いな。
……嫌な予感しかしなかったが、現実になると笑えてくるな。
キリングを送り出して3ヶ月ほどは静かなもんだったが……そこから怒涛の不審死が大量発生。
もちろん死んでいるのは連邦のネズミさん達だ。
まるでウチにいたときの鬱憤を晴らすかのような勢いだな。
一応確認したがギレンさんからGOサインは出ているようではあるが……大丈夫か?暴走してないか?本当にギレンさんが指示した範囲だよな?
不安だ。