第六話
いやー、連邦さんも思慮が足りないというか短絡的というか阿呆というか傲慢というか。
なんでこんなことするのかねー。
コロニー自治権整備法案棄却、この見るからにスペースノイドにとって良いことではないことがわかる字面……もちろん良いことは1つもない。
そもそもコロニーには2つのパターンが存在する。
1つは大半が占める棄民目的に作られたコロニー、もう1つは宇宙という新しい舞台と膨大な棄民という市場を狙う企業や富豪層によって作られたコロニーだ。
そしてこの2種類のコロニーは明確な差がある。
それは自治権の違いだ。
企業、富豪層のコロニーは自治権なんてハッキリした形で存在はしないが発言権は有している。それに比べて棄民のコロニーは100%地球連邦によって作られた公共施設であるため発言権は最初から無いように作られたのだ。そうでもしないと自分達の首を絞めるだけの政策にしかならないので実行ができなかったんだろうな。
棄民なんて放り投げるようなことしておいて発言権を与えれば面倒なことになるのはわかる。だがそれなら最初からコロニー自治権整備法案なんて出さなければいいものを……ジオン共和国を理由に棄却することを前提に出したもので、最初から通す気がないのは少し事情を知っていれば分かるものだが政治に興味がない市民は期待し、そして裏切られた。そう感じたことだろう。
だから――
「スペースノイドに自由を!!」
「スペースノイドに人権を!」
「傲慢なアースノイドに鉄槌を!」
こうなるのも不思議ではない。
そして当然ながらこれはサイド3だけのものではなく、他のサイドでも起こっていることだ。もちろん裏ではジオン共和国が煽っているのは言うまでもない。まぁ規模こそ違えど煽ろうが煽らなかろうが起こったことだろうがな。
そして――
「それでなんでサイド7建造計画なんだ?」
いや、本当に動きがバラバラだな。
普通に考えていい加減今までも移り住みたくなかったのに、昨日の今日では誰も移り住みたくなんてないだろ。いくら市民が忘れっぽい生き物でもサイド7ができた頃には忘れているなんて思ってないよな……思ってないよな?
それはともかく、そんな感じに反地球連邦が増えてきてた影響で、強硬派のザビ家の支持者が増えて行くのも自然な流れである。
そして最初からザビ家を支持している俺にも影響が当然ある。
「ユーリさん、かばんをお持ちしましょうか」
「おはようございます。ユーリ閣下」
「お食事を共にしてもよろしいでしょうか」
と、あからさまな胡麻擂りを行ってくる輩が後を絶えない。
ただ、これは結構前からあったことなので、人数が増えたところで対応にはそれほど手間がかからない……いや、1つだけ厄介なことがあったな。それは必要以上の忖度だ。
ほんの小さな言動が必要以上に大きな動きを与える。
上位に存在する人間なら大なり小なりあることは知っているんだが……今までとは違って彼、彼女等は胡麻擂りであっても『強硬派』だということを忘れていた。
休暇に街に出かけてある店で食事したが不味かった、という話を軽くしたんだが次の日にその店を潰そうとする動きがあるという話が入ってきて慌てて止めたのは間違いなく悪い思い出だろう。こんな思い出でも将来は笑って思い出すこともあるのだろうか。
まぁ俺の苦労なんてギニアスと比べたら大したことはないがな。
サハリン家もザビ家支持を初期の頃からしていることが有名な上に名のある貴族ということもあって俺ほどではないにしろ取り巻き(自称)が増えた。
そしてそういう奴らに限って――
「アイナ様のご婚約者はまだお決まりではないそうですが私の弟などどうでしょうか」
「いえ、私が――」
「叔父が是非にと――」
とギニアスの逆鱗に平気で撫でたり叩いたり蹴ったりするのだ。
そしてそういう奴らに限ってそれなりに良い家柄であるため無難にお断りを入れている……もしそうでなければ何人かは行方不明になっていても不思議には思わん。
ちなみに――
「あのゴミ屑ロリコン共を殺してやりたいんだがいい方法はないだろうか」
「やめとけ、お前の愛する妹を殺人者の妹にする気か」
「ちっ……明日強酸の雨でも降らないかな」
「コロニー内で降るわけないだろ」
と本気混じりの愚痴を聞いて止めるまでが俺の役割だ。なんで俺が……と思うが腐れ縁であるしアイナは可愛い妹分だからな。他はともかくロリコン爺にやるつもりはないのでちょっと裏を取っておくか。まぁ叔父と言っても年寄りとは限らんが、それも含んで調べておくとしよう。
「ところで知っているか、今回のことを受けて新たな戦艦の開発に着手したそうだ」
「新たな戦艦を開発ねぇ……既存のものとは違うってことか」
「ああ、なんでもビーム兵器を運用するそうだ」
「は?ビーム兵器?ビーム兵器ってあれか、レーザー兵器と並ぶロマン兵器のアレか」
「ロマン兵器かどうかは知らないが、それだ」
ビーム兵器……地球連邦でも実用されていないそれを先んじて投入することができれば少しは対抗できるぐらいにはなるかもしれないな。
それよりも気になるのは――
「なんでギニアスがそんな軍機を知っているんだ?明らかに末端が聞いちゃダメなやつだろ」
「俺達(マッドサイエンティスト)を舐めては困るな」
なんか妙な副音声が入ったような?それと答えになってないぞ。
「ああ、ちなみにこの情報を誰かに漏らしたら間違いなく粛清されるから気をつけろよ」
「やっぱりそれほどの情報だよな?!これ!!」
世間話にサラッと危険物を混ぜんな!
「それでそのビーム兵器……正式にはメガ粒子砲というのだが……に使われている粒子がまた変わった特性を持っていて、その粒子の名前はミノフスキー粒子と言って」
「いや、俺はそっちの分野はあまり得意じゃないんだが?」
「お前に答えを求めていない」
つまり四の五の言わずに話を聞け、と。
こりゃよほどストレス抱えてんな。
まぁ解消しておかんと愛しのアイナちゃんに気づかれるのはイヤなんだろうが、俺への配慮もお願いしたいところだが、それは今更無理だろうな。