第六十一話
人を殺し、弄ぶ外道な俺だが、外道を更にもう1歩先へと進まなければならない。
今回の情報漏えいは戦争を早めた可能性は否めない。
というわけでハウンドにはある意味最初であり、ある意味最後の試練に取り掛かる。
「お前達にはそれぞれこのターゲットを始末してきてもらう。お膳立てはこちらでするのでお前達はこれの引き金を引くだけでいい。簡単なことだろ?」
そう、ハウンドは未だに人を殺したことがない者がほとんどだったのだ。
マハルで生活してこの年齢まで人殺しをしていないのは運がいい方だ。そして俺達に雇われたのは運が悪い。今までの運の良さが最後で台無し……いや、最後じゃないか。これからも生きていくんだから。
とはいえ俺は立ち会わないんだが。厳密にはお膳立てするのはキリング少佐に任せている。
さすがにそれほど暇じゃない……とはいえ、保護者が必要だということでシーマを共につけている。いつものお決まりのようにシーマとシンシア少佐がバチバチやりあっていたが――
「いきなり初陣で殺すのに躊躇して戦死って結末でもいいならそれでもいいが?」
「いいわけないだろ!」
自身で言っておいてなんだが、よくねーな。
ニュータイプという点を差し引いてもハウンドは開発から携わっている熟練したパイロットを失うのは痛い。
それにニュータイプだ。
あいつらの才能は未知で、人殺しをした場合どうなるかがわからない。
相手の感情がわかるとなると死に直面した人間の感情を受けるということになる。
普通の人間ですら人を殺せば多かれ少なかれ一生モノのトラウマになるのに、そんな能力があるとなれば一体どうなるか……戦場で廃人になって本人が死ぬだけならいいが、錯乱して敵味方見境なく攻撃するなんてことになったら……ゾッとするとかいうレベルじゃないぞ。
ちゃんと錯乱して能力が落ちてくれればいいがそのままあの射撃能力と回避能力を発揮されたなら被る損害は如何程か想像もできん。さらに言えばハウンドが味方を殺すことができるかという疑問もあるしな。
というか初陣は俺が直接率いることになるから巻き込まれる可能性があるんだよなぁ。
そら軍人である以上死ぬ覚悟も生き抜く覚悟も見捨てられる覚悟もしているし、万歩譲って味方の裏切りで死ぬなら納得できるがさすがに味方の錯乱で死ぬなんてまっぴらだ。
「お前もついていって好きなだけ面倒見てやれ」
「最初からそのつもりだよ!」
やっぱりシーマに軍人は向いてない気がするなぁ。まぁ今更辞められないが。
「あ、そうそう上の5人は人殺しが嫌になったら人体実験コースもあるから気楽にやれって言っておいてくれ」
「外道すぎないかい?!」
残念ながらこれが現実なんだよなぁ。
結果、ニュータイプ達(マリオンを含む)は全員トラウマ?というか何らかの精神的影響を受け、他のハウンド達は意外とケロッとしていた。
ニュータイプってのは扱いが難しいと改めて思う。
そして何の因果か、人殺しをしたことによってニュータイプが発するという脳波は強くなったと科学者から報告があった。
本人が嫌なことをされて強化される能力……これはニュータイプというよりも呪いの間違いじゃねーか?まぁ度が過ぎた力が呪いのようなものなのは昔からだけどな。核を開発したばかりに膨大な維持費を費やしながら核を保有し続けなければいけない大国とか……もっとも核と同等の軍備を整えると考えた場合安いもんだろうけども。
それと同時に科学者達は5人に対してもっと躾(洗脳)すべきではないかと提案された。
どうやら自分達が恨まれることを危惧しているようだ。今更一般人が抱くような感情を抱いてもな。