第六十三話
「これは面白いな」
宙に浮かぶグラフィック。
映し出されたのはMSの運用を前提として出来上がった戦術シミュレータだ。
つい先日完成してペズンに設置された。
戦艦、戦闘機を運用するシミュレータはあったが、MSはスペックと運用データが集まりきっていなかったために反映できずにいたのだが、教導隊から吸い上げたデータを基に作り上げることができた。
とは言っても面白いだけって感じだけどな。
そもそもミノフスキー粒子を散布すればセンサー関係や通信の多くが制限されるんだからこれほど視界は良好ではないし、今やっているようにチベ級3隻をこれほど精密な連携はできない。
それに前々から言っている通り、機動兵器は個人の技量が大きく反映される。
戦闘機にしろMSにしろシミュレータではパイロットの平均値の戦闘能力ということになっている。
仕方ないんだがハウンドは全員この平均値より上回っていることを考えるとあまりシミュレートできている気がしない。
「……随分お強いんですね」
「んー?こんなの遊びの範疇だろ」
シンシア少佐が感心するように言うがあまり褒められたもんじゃない。
「MSのデータに対応できてないAI相手じゃ自慢にゃならんよ」
まぁ人相手でもあんま負けたことないんだけどな。
こういうのがめっぽう強いギレンさん相手でも不確定要素がないチェスじゃ分が悪いが旧式のシミュレータの対戦成績は7割勝てている。
ギレンさんは頭はいいし回転も早いが最善と効率を重視するんで自然と手が読めてしまう。
ギレンさんの良さを出すにはこんな局地戦のシミュレータでは狭いんだよなぁ。まさかシミュレータで盤外戦術を用いるわけにもいかないし。
「他の奴ら相手でも過去のシミュレータの成績を見れるんだから勝って当たり前だよなぁ」
(その理論が正しいならユーリさんの成績を見れば勝てるということになるのですが……)
「ああ、そういや知ってたか?このAIって何を基に作られているか」
「それは連邦の教本を基にしていたと記憶していますが」
「残念ながら完璧な正解ではないな」
「では正解は?」
「この動きから察するにサイド2の駐屯艦隊の第3だろうな」
「……まさかこのAIは現在の……」
「そう、各サイドの駐屯艦隊、そして宇宙軍の佐官クラスの運用データから作られているってわけだ」
「なるほど?」
(確かにそれなら傾向もわかり、対策が立てやすくはあると思いますけど……佐官クラス全員の情報を把握していると?)
「ついでに言うが地上戦術シミュレータも同じだぜ。まぁあっちはこっちとは違って本当の意味で玩具だけどな」
(地上軍まで把握しているのですか?!連邦の佐官の人数って何人でしたっけ?!)
地上戦術シミュレータはなぁ。想定される戦術が多すぎてシミュレータでは再現できないんだ。
ちなみに俺が直接ギレンさんに提案して作ってもらって導入してもらったものがある。
それは……ゲリラ戦シミュレータだ。
人類史上最強にして対応が面倒な戦術は間違いなくゲリラ戦法だ。
しかも人口比では負けている俺達がゲリラ戦を仕掛けても消耗戦では負けてしまうし、宇宙ではゲリラ戦の経験なんてほとんど積めず、何より地上という地の利は敵にある以上は仕掛ける上でも不利なわけだ。そして連邦はまるっと逆転するんだからなぁ。
せめて玩具程度でも訓練しとかねーと対処に遅れちまう可能性が高いしな。このあたりはコロニー出身者にはわからんことだろうから俺が指摘したわけだ。