第六十四話
「チッ、後少しで勝てそうな感じだったんだけどねぇ」
「初めてにしてはなかなか筋がいいと思うぞ。指揮官としての才能がありそうだな。シーマ」
ユーリとシーマは先程まで戦術シミュレータによる対戦を行っていた。
勝敗的にはユーリの勝利で終わったが、内容的にはこの前まで素人だったシーマがエリートとされるユーリが互角以上に戦いをみせた時点で才能はある。
「ところでエリート様がこんなことでいいのかねぇ」
「まぁ拾ってきた犬が思ったより使えるのは良いことだ」
「……休憩は終わりだよ。とっとと席に付きな」
「いや、まだ休憩時間は終わってないんだが……ま、飼ってる犬の躾をするのも飼い主の仕事だな」
犬呼ばわりされてカチンと来たシーマは再戦を急かし、ユーリは遊びではなく訓練だし休憩も訓練の内なんだが、と思いつつもあえて受けて立つ。
シーマは現状なんちゃって軍人であるし、伸ばせそうな方向に伸ばした方がいい……それに軍人としての教育はシンシアに任せている。(つまり後でまた説教確定である)
再びシミュレータに向かう2人……そしてそれを見守る2人、シンシアとノイエン・ビッターだ。
「ビッター中佐、実際のところはどうなんでしょうか」
「ん?シンシア少佐は戦術の方は……」
「ええ、あまり得意ではありません。どうも考えすぎてしまって」
「気持ちはわからんではないな。それであの2人なんだが……まぁ見ていればわかる」
条件は同戦力、チベ級3隻、MS24機編成でヅダは運用データが少ないためにシミュレータには未実装なので全機ザクだ。
勝敗は全滅、もしくは母艦の全撃破。舞台はコロニー近郊でコロニーへ被害を与えても敗北。
「……正直、私ではシーマさんの用兵には敵わないでしょう」
「ふっ、嫉妬か?」
「そうですね。これでもケラーネ大佐の右腕と自負していますから」
「とはいえ、あの嬢ちゃんの用兵は実戦向きじゃねぇからなぁ」
「そうですね。そのあたりは私でも教えられそうです」
シーマの用兵は勝つことが目的としている。
もちろんそれそのものは間違ってはいない。いないが――
「あれじゃ勝ったとしても戦い続けるのは無理だな」
「ええ」
シミュレータで勝ちを意識するのは自然なことではあるが、実戦を想定していると考えた場合、損害や物資の消耗を度外視した戦い方は決戦でも無い限りは好まれるものではない。
その点、ユーリは実戦を想定して戦っている。その点から実力には差があるのは明白だが――
「しかし、初めてのシミュレータにしては堂に入った全力戦闘です」
「そうだな……だが、まぁ……相手はケラーネ大佐だからなぁ」
「そういえば、随分とシーマさんがやりにくそうですね」
「ある程度分析が終わったんだろうな」
「……たった1戦で、ですか」
「正確には1戦後半にはもう終わってたんだろうよ。だから勝てたんだろうしな。士官学校時代からあんな感じだ。大佐はあんな感じで野生感を出してはいるがあくまでポーズで、実際のところ中身は正反対だからな」