第六十八話
「あの愚妹があぁ……」
珍しくギレンさんが頭を抱えている。
理由は漏れた言葉どおり、ギレンさんの妹キシリアにある。
前々からわかっている通り、キシリアの後ろには月が付いている。
まぁここまで言えば察する人もいるだろうが……情報流してやがった。わかっている内容だけでMS対応改修前のチベ級の設計とMSの一部部品のデータ。
ギリギリ実害がないでもない程度の嫌らしいところだ。
チベ級の設計データはそれほど問題にならない。元々艦艇に関しては連邦の方が技術力が上で、大きく改修されている。それに戦術、戦略の要であるメガ粒子砲は未だに最高機密だから大丈夫だろう。
問題はMSの方だな。
連邦には既に偽情報として玩具仕様のMS情報を流しているんだが……キシリアが漏らしたのは玩具仕様ではなく、本物のMSの部品の情報を流しやがった。
部品そのものの漏洩が問題と言えば問題だがそこが本題ではない。
本題は『流した偽情報と今回の情報漏えいとの差異』だ。
今はまだ月のやつらだけに留まっているようだが、連邦に情報が流れるのは時間の問題だろう。
玩具仕様と本物の部品では技術が目に見えて違うレベルだ。
こんなのが連邦に渡れば若干落ち着いてきた諜報合戦がまた激化することになる。
ちなみにこれを知る切っ掛けは上位陣が好き勝手して無駄なリソースを割いていないか調べるように俺が言い始めたことだ。
だから俺が呼ばれて相談兼愚痴られている。
「策は」
俺からかよ。
わざわざペズンから来たんだからもう少し優しくしてくれてもいいじゃねーか。
「こうなったらガッツリ月の連中に絡んでもらったらいいと思う。幸い行き着いた先はアナハイム・エレクトロニクス、あそこは確か独立採算でそれぞれの部門が繋がり薄い企業だったはず」
「……なるほど、確かに……全体ではなく一部を取り込むか、消すよりは利もあるし労力も少ないか」
どれだけの範囲消すつもりだったんだよ。てかもしかして俺が呼ばれたのってそれか?
「渡った相手次第だけど……」
「……ふむ、我々を使って成り上がろうという意思はあるようだが、それは我々を売ってではなく利用してというわかりやすい奴のようだ」
「利で釣れる素直な相手は楽でいいな。大事にはならないで済みそうで良かった……がキシリアはどうする」
「……ハァ、愚妹とその周りにいる者達の軍機閲覧可能レベルを下げておこう」
「ペナルティは無しか」
「昇進を遅らせるが表立っては無しだ。こんな不祥事が漏れれば付け込まれる隙になる」
「なら罰として歩兵訓練にでも参加させたらいいのでは?根性を叩き直すには丁度いい」
「そんなことしたら私が暗殺されそうだ……が考えておこう」
冗談だったんだが後半、結構本気っぽかったぞ。よほど腹を立てているようだな。