第七十一話
主力兵器であるザクII、少数精鋭向けのヅダ、サポート兵器としてオッゴの生産が本格化。
ヅダに関しては仕様変更が行われた。ザクIIの技術を取り込むことで性能が向上し、部品の互換性を持たせることで生産コストを下げることに成功した。
それもあって当初の予定よりも生産数が増えることになった。
艦艇に関してはムサイ級が続々と建艦されつつ建造予定が組まれ、ザビ家の座乗艦として戦艦グワジン級の開発も最終段階に入り、更にはユーリ達が改修したチベ級の構想を基に新たな遊撃艦としてチベ級ティベという改修ではなく、最初からそれを目的とした艦も開発を始めた。
更に超大型空母、宇宙で航行でき単艦で大気圏突入が可能で大気圏内でも飛行することができてMSの母艦となり、一定戦闘の戦闘が可能な艦や大気圏内で爆撃兼MS運搬兼補給を担う攻撃型空母、それらを護衛する戦闘機の開発をギレンは指示した。
宇宙での戦いで決着が付くと考えたいところだが、現実は難しいとジオン軍の幹部は考えていた。そもそも地球連邦の総司令部は地球にある。
宇宙でどれだけ軍を叩いたところで総司令部を叩かなければ世界政府である地球連邦が折れることはないと予想される。
だからこそ自身が不利に状況……つまり地球侵略を行うことも視野に入れ、対策は早い内に立てておくべきなのだ。
「ところでギレンさん、ちょっと買ってほしいものがあります」
「ほう、わざわざユーリが私に直接頼みに来るのは珍しいな。金が欲しくなったか」
「ハウンドの奴らがザクIIの方がいい~とうるさいので」
「お前にしては少々甘い対応だがわからなくもない」
以前MSと引き換えにハウンドを受け取り、現在は表向き使いづらい年齢であることからもっとも機密が保たれるであろう親衛隊のMS隊に所属しており、その戦闘能力はもちろんギレンの耳に入っている。
「それで何を買ってほしいんだ」
「これだ」
「……なるほど、盲点だったな。確かに地上への侵攻には必需品だ」
「スペースノイドばかりじゃ気づきにくいですね」
ユーリがギレンに渡したのは何の変哲もない虫除けスプレーと殺虫剤だ。本当に普通のものである。
しかし、この2つはある意味特殊なのだ。
なぜなら――
「コロニーでは必要ないからな」
コロニーに入る人や物は全て検疫が行われ、検疫対象の中に虫も含まれていてコロニーにはほぼ存在しない。
一応観光コロニーなどには意図的に数種類の虫や鳥などが離されているが、それも厳重に検疫を行っている。
そのため虫除けスプレーや殺虫剤などというものは無縁なのだ。だが、地球侵攻を視野に入れると必需品である。
「まだ地球侵攻が決まったわけではないとはいえ、必要になってからでは生産も間に合わんか……いいだろう。優先的にザクIIを回そう」
「ありがとうございます。後、こんなものも設計してみたけど、こっちはまぁ追々かな」
「簡易クリーンルームか、治療用にも使えて兵士達のストレス軽減に期待できるな」
地球への侵攻はスペースノイドにとってハードルがかなり高い。
管理されていない本物の自然というものをほぼ知らないスペースノイドにとって予測できない雨風や雷、地震など経験がない。
わざわざ土を敷き詰めている場所でなければ土埃なんてものは発生しないし、雨の後の臭いなんてものは微生物レベルで管理されているコロニー内で臭うわけもないし、もっと言えば曇りなんてものもない。
そんな環境に24時間晒されるとなるとノイローゼや鬱になり、士気低下は避けられない。
それを一時的にでも緩和することができたなら士気の維持しやすくなるし、優先利用を認めるなど金のかからない報奨などにも使うことができる。
「前もって用意するには少々高価だな」
しかし、仮にもクリーンルームであるためそれ相応のお値段である。
「こっちは地球侵攻が決まってからでいいな?」
「ええ、そのつもりで持ってきたから問題ないです」
「それにしてもお前の喋り方の不安定さはどうにかならないのか」
「おっと失礼。つい詩情でお願いしに来たんでつい昔のスタイルになってた」
「まぁどちらでもいいがな」