第七十二話
「さすがギレン閣下。ジオニックに負けない仕事の速さだ」
ユーリの前に立ち並ぶザクIIを眺めてため息を漏らす。
もちろんため息とは言っても呆れなどの負の感情ではなく、感嘆のため息である。
私情の入った取引を終えてから3日でこの光景を生み出しているのだからその手腕に感服しているのだ。
反面――
「独裁国家の強みだよなぁ」
と自国の長所を実感していた。
全体がお役所仕事な地球連邦だとこうはいかない。
「それに太っ腹過ぎる。ギレン閣下が俺に何をさせたいのか……まさか俺に惚れてほしいとかないよな」
「仕事をして欲しいのだと思いますが」
「おっと今日のシンシア少佐は辛辣だねぇ……」(俺、何か悪いことしたか?)
日頃は上品でありながら妖艶なお嬢様然としたシンシアが凍えそうなほど冷めた眼差しと声色になぜ?とユーリは首を傾げる。
真実はユーリとギレンの関係への嫉妬心とユーリの何気ない言葉に反応してしまっただけである。
ちなみにギレンが太っ腹と言ったのはザクIIと引き換えに配備されていたザクI全て回収されると考えていたが2機はそのままの配備となった。
理由としてはハウンドの成績がが優れていることが親衛隊に引き抜いたことで有用性を理解したギレンはザクIIが量産体制に入ったため優先順位が下がったザクIをそのままにしておくだけの余裕があったのだ。
もちろん本当の意味での余裕ではなく、なんとか捻出することができるというものに過ぎない。そしてそれを理解しているからこそユーリの言葉でもあった。
しかも――
「ザクIを返すのが3週間後というのもなかなかの憎い心遣いだよな」
3週間の間だけではあるがヅダ8機、ザクII12機、ザクI10というユーリ艦隊の定数である、最近決まった正式名称、チベ改級3隻編成のMS総搭載数24機を上回ることができた。
これによって今までできなかった本来の数での演習が可能となった。
3週間の内18日間程度は模擬戦でスケジュールが埋まっている。
通常時では管理職で部隊指揮はノイエンに任せているユーリではあるが、戦争間近ということもあって無理にスケジュールを空けて模擬戦を詰め込んでいる。
そして19日目には再びドズルが率いる教導隊との模擬戦も組まれていた。
教導隊はリベンジマッチに燃えている。
それに比べるとやはり年齢が低いハウンドは気が緩んでいた。もちろん負けるつもりはないが、熱意では明らかに負けていて。若干天狗傾向にある。
そのことは周りはわかっているが放置している。
実力主義的となれば天狗になっても実力を示し続ければ問題はない……ということもあるがMSという新しい兵器をもっとも扱いに長けているのはハウンドと教導隊で、違う畑の者がいくら色々言ったところ言葉は通らない。
もちろん権力と実際の力で押さえ付けることは可能だが、ユーリはそれをしなかった。