第七十三話
「クソ!なんで負けたんだよ!俺達の方が強いだろ!!」
宇宙において生命線とも言えるヘルメットを叩きつけられ、その勢いで宙へを泳ぐ。
声の持ち主はハウンドの精鋭部隊のニュータイプの1人だ。
そして怒りとともに出た言葉どおり、彼は……いや、彼らは敗北した。
対戦相手はもちろんドズル率いる教導隊である。
この演習は3番目に行われたもので、最初は単機同士、次は小隊、そして今回のハウンドの総戦力である24機に合わせた24機同士の演習だ。
1戦目、2戦目は問題なくハウンドが問題なく勝利した。いや、圧勝だったと言ってもいい。
勝因は言わずもがな。圧倒的個人技によるものだ。
ニュータイプや才能というものはもちろんだが、ハウンドはシミュレータや実機の操縦時間は教導隊を遥かに上回っているのだから当然といえば当然の結果だ。
しかし、3戦目にて敗北。
敗れた要因は教導隊の戦術が負けない戦い方を行ったことだ。
ハウンドは精鋭ではあるが、反面人員移動は少ないどころかまったくない。
そのせいで技術や経験を積み重ねたとしてもデータを取られると極端な変化は少なくなる。故に前回の模擬戦で収集された情報を基に対策を練られれば、個人同士や小隊規模よりも群対群では大きく影響することになる。
そしてその上で、勝つには先を取らなければならないが負けないためなら後の先でいいし、何なら後の後の先ぐらいでもいいことになる。
この戦い方はニュータイプとの相性が悪かった。
演習である上に相対するパイロットが自分で勝つという意識がないため、ニュータイプの感情を読み取る能力が大きく低下したのだ。
結果、1機を落とすのに掛かる時間が増えることになった。
そもそもビーム兵器がないMS同士の戦いは決定打に欠ける部分が多い。3、4発当てても撃破できないのも1つの要因だろう。
「お前らがもたもたしてたから!」
「本当にそう思ってんのかい」
ヘルメットを叩きつけた彼は他の仲間に暴言を吐き始めると早々にシーマが横槍を入れる。その声には多分に非難の色が含まれて……というかそれ一色だった。
「な、なんだよ」
「あんた達は個人戦では優秀だし、小隊規模もいいさ。でも今回はあんた達が足を引っ張ってんのを自覚しな」
「うぐっ」
簡単に言ってしまえばMSが24機揃っていなかったことで連携不足のところに無理して高パフォーマンスを維持しようとするハウンド上位(ニュータイプ)は連携などお構いなしといった感じで戦闘をした。
その結果、見事に陣形以前に足並みが揃わず、分裂してしまい、数を活かすことができなかった。
それに比べて教導隊は個々の練度はハウンドに劣るが、その充実した戦力(MSの数と人員)に差が生まれた形だ。
ユーリの私兵に近い形のハウンドとは違い、教導隊は正規軍であり、きっちり教育を施されている軍人で構成されていて、MSも既に50機を超える数が配備されている。つまり今回の規模の模擬戦は日常的にとまでは言わないがそれなりの数を経験していて、その分だけ連携がうまかった。
そしてパイロットとしてはともかく、軍人としての質もある。
戦いがどういうものか、というのは軍人である教導隊の方が熟知していた。
群れは分ける、1秒でも素早く正確に……そして、弱いところから叩く。戦術の基本だ。
これに対応するにしてもその手段が思いつくまでの速度が遅い、速くても手段が稚拙、そして味方との意識の共有化が成されていないため各自で動いてしまい対応が被ったりして穴が開くことが多かった。
つまり、ハウンドにとって負、教導隊にとっての利が合わさった形となった結果、ハウンドは敗北した。しかも惜敗などではなく、普通に敗れている。
もっともニュータイプの彼が言っていることも間違いではない。
追いつけないなら追いつけないなりにニュータイプをうまく利用してしまえばいいのだが、それもうまくできていない。
これが教導隊であったならうまくフォローしてみせただろう。
結局負けた要因をまとめるとパイロットとしてではなく、軍人として負けたということである。
「うまく天狗の鼻はへし折れたみたいだな」
シーマ達のやり取り(若干手が出ているが)の様子を見て満足そうにユーリは頷く。
以前なら叩いて覚え込ませていたが現状、ハウンド上位はニュータイプという希少な存在である。しかもその能力はどうも精神が大きく影響するようだということが判明している。
もう少しデータが揃うまでは外部からの大きな変化を制限した。
「これで自主的に学習することだろうな……やれやれ、面倒だ」
それにスラム出身というのも足を引っ張った。
MSの操縦は感覚に頼って学ぶことができるが座学はどうしても受け入れづらいようで低く見積もっていた予定ほども進んでいなかったのだがこれを機に変わる……といいなぁ。とユーリは思う。