第七十四話
一悶着あったもののまだ演習は続いた。
ザクIIの試運転も兼ねているため演習は長時間行われた。
その演習も回を重ねることでハウンドの動きは洗練されていき、諍いがあったがそれも自然と消えた。
何より――
「敵と船速合わせ後退、一方的に撃ち続けろ。MS部隊はまだ待機だ」
ユーリとドズルが直接指揮を行う模擬戦が始まったのである。
今まで行われてきたのはMS部隊の実力を計るものだったのに対して今度は指揮官の実力を計るものへとなったのだ。
ちなみにこれで同じような失態があった場合、ニュータイプならハード人体実験コース、そうでなければリンチコースだとユーリ直々に告げられている。
ユーリは嘘だ、冗談だ、と付け加えなければ本当にやる主義であることをハウンドは知っているためそれはもう気合いが入った。今までにないほど。
「この距離ではそうそう当たらん!距離を詰めるぞ!」
ただし、部隊の性質上の問題で正面から殴り合うということにはならなかった。
ユーリ達は遊撃艦隊であることから機動力重視であり、勝つことよりも被害を最小限で出血を強いることが基本方針である。
そしてドズル率いる教導隊はジオン公国軍で主力艦となるムサイ級が5隻、パプワ級1隻で、MSはユーリ達と同数である24機でザクIIを統一され、戦術は正攻法の立ち回りである。
「あの様子じゃ俺の本当の狙いがわかってねぇな。ただのアウトレンジが狙いじゃないっての……よし、ターゲットは4番だ。やれ!」
ユーリの指示によりチベ3隻は後ろに下がりながら引き撃ちを一時的にやめて、4番とナンバーを割り当てられたムサイに全大型メガ粒子砲の照準を合わせ、今までバラけた艦砲射撃だったものが一斉射撃へと変貌する。
照準を合わせられたムサイはそれに察知して回避行動を取る……がその反応は遅い。
「練度不足だねぇ」
引き撃ちを試みていたのは教導隊の艦隊がどれだけの練度なのかを測っていたのだ。
ここまでの演習は全てMS隊だけのものであって艦艇の類は参加していなかったためにユーリは教導隊の実力を測りかねていた。
特にムサイ級の集団運用に関してはデータでしか知らず、実践ではどのようなことになるのかユーリにもわからなかった。
だからこそ慎重に相手と距離を取り、相手を動かし練度を測り、劣る敵を集中的に狙った。
その結果――
「推進機に命中判定!」
演習だと被害がどの程度かわからないため、読み上げるスタッフが配置されている。
推進機に命中ということは速度が落ち、旋回速度が低下する。
そしてそれはユーリが望んだものでもあった・
「よっしゃ。幸先良し。さあ、突撃だ!手順はわかってんだろうな?!結果的に負けたり失敗でもいいが、ミスで失敗は認めねーからな!!」
チベ3隻は速度を上げ、旋回して損傷を与えたムサイを障害として利用するように加速させる。