第七十五話
「MSに気を取られる過ぎて艦隊戦の訓練が、いや、艦隊の運用に偏りが過ぎるぞ」
1番動きが拙いムサイの足を鈍らせ、こちらが障害になるように機動を取って近づく動きをすると教導隊は簡単に陣が崩れた。
こちらがムサイ級よりも高機動であることは資料で知っているはずなんだが、対応がお粗末だ。
旋回速度が遅いし、航路予想を見ると俺が狙ったとはいえ、味方が射線に被ってメガ粒子砲の3分の1ほどが使えない状態になっている。
ムサイがメガ粒子砲を満足に撃てないなんてただの若干戦闘ができる輸送艦程度でしか無い。
「3番を狙え!斉射後はダメージの有無に関係なくMS6小隊を出せ!とっとと沈めてこい!残りは防衛に付けろ!」
(注・小隊はMS3機編成と決まったが中隊の規模はまだ決まっていない)
迂闊にも味方の進路を大きく塞ぐように動いた3番に対して一斉射、結果は推進機とメガ粒子砲2基を削ったことを確認。
それに宣言通りにMS6小隊が出撃する。
先頭を駆るのは当然ヅダだ。
その姿はいつもどおりのはずなんだが、どこか焦っているような、苛立っているような感じがするのはモメていたところを見たからなのか、それともニュータイプの能力で感情が漏れているのか。
「お前らが本当の戦いで弱いわけじゃねーんだ。たかが模擬戦に負けたくらいで荒れんなっての」
そんな心だから負けんだよ。
それに――
「MSが花形ってのは間違いないが戦艦の存在がなくなったわけじゃねーんだよ。主砲!ガンガン撃ってムサイの足を動かせ続けろ!」
MSの発進は戦艦が動きを止めている状態でなければトラブルの素となる。
実戦ならば回避運動中の出撃など危険があろうとも命に関わるので普通に躊躇なく行われるだろう。しかし、これは訓練だ。それなりにリスクがある回避運動中の出撃が選択できるだろうか?こちらがMSを出撃させた以上、1秒でも早く指示するのが指揮官ならば当然だと俺は思うが――
「やっぱりな」
一斉集中砲火によって2隻も被弾したことで必要以上に警戒してしまって回避運動が大きくなっていることもあり、出撃には不安定と踏んで出撃させない艦長がいるな。
本職の軍人の判断とは思えないから俺と同じ成り上がり組かねぇ。
「満足に数が揃えれなけりゃこっちには勝てないってことはわかっているだろうに……俺達はこのまま突っ切るんで防衛のMSは敵とのすれ違いざまに戦いに参加しな。こっちはまっすぐ突っ切って逃げっからよ」
教導隊との模擬戦ではよーいドンッ的なスタートでお互いが準備万端の状態で戦いが始まった。
それによってハウンドの連携の弱さが出てしまったが、準備が不十分でしかも自陣で乱戦の状態ならどうなるかねぇ。
ついでにいえば先行させたMS6小隊はすれ違う俺らの艦隊を攻撃しないようにする役割も兼ねている。
「にしてももうちょっと艦隊運用を勉強した方がいいと思うぞ」