第十二話
「僕、いっぱい勉強して兄ちゃんが戦うために必要なものを作るよ!」
そう言って、ふんすっ!と両手を握って宣言する我が弟……天使かな?作ろうとしているのが物騒な気がするが気のせいだろう。
「そうか……頑張れよ。俺も頑張って――」
「兄ちゃんは警察官か兵士さんになるんだよね!」
「……おぅ、ブラザー。なんでそう思ったのか兄ちゃんに教えてくれるかな?」
「……もしかして兄ちゃん隠してるつもりなの?」
「いや、そういうわけじゃないけど話したことはなかっただろ」
「も~。お母さんじゃないだから見てればわかるよ~」
おっと、思わぬところでブラザーが母親をどう思っているのか片鱗が見えたな。
そしてそうかなとは思っていたけどやっぱり母親は気づいてないのか。前に話したし最初のテロの時のインタビューでも宣言しただろ……まぁ真剣に聞いてなかったんだろうな。子供の夢なんて一過性なことが多いし。
「それは置いといて!兄ちゃん兄ちゃん!僕、こんなの考えてみたんだ!」
そう言ってタブレット端末を渡された。
もしかして悩んでいたのは決断じゃなくて何を作るかってことだったのか?ならいらない配慮だった――
「……ブラザー。これは何かな?」
「よくぞ聞いてくれました!これ、防弾スーツと折りたたみ式の小型防弾シールドだよ!」
……弟が思った以上にガチなんですが……マジか。
「素材が用意できなくて病院の先生に相談したら良いものがあるって用意してくれたんだ!」
おい、医者!何やってんの?!
「防弾スーツはちょっと空気の通りが悪くてちょっと重いけど、この前の人ぐらい離れてたら痛いけど青あざで済むよ!痛いけど!」
大事なことなので2度言ったんだな。
「折りたたみ式防弾シールドは日頃は腕時計っぽい見た目だけど、このボタンを押すと手のひら大のシールドが展開されるんだよ!この前の銃ぐらいなら至近距離でも防げるよ!」
「手のひら大か……」
「兄ちゃんならこのサイズでも多分見切って受け流せると思うんだ!」
「おう!任せとけ!」
――とは言ってみたもののできるかぁ?躱すことはできるけど受け流すって……難易度高くないですかね弟様。それに受け流した先で跳弾したら洒落にならないし。
まぁでも努力しない理由はない。後でボブに相談だな。
「ありがとう。ラファエル」
「へへへ」
「そういえば武器はないんだな」
不満があるわけじゃないけど、この年頃だと守りより攻めを重視しそうだと思うのは偏見か。
「んー、武器も考えたんだけど兄ちゃんはほとんど完成されてる気がするんだよねー」
言われてみれば近接戦闘は肉体で、中距離はエアーガン、長距離はそもそも民間人が持っていいような武装がない。確かに穴はない……ないか?
「持ち運びとか考えると伸びる警棒とかいいと思うんだけど兄ちゃんが使えるのかわかんなかったし、確実に使えるナックルは……兄ちゃんが使うと凶器度が上がるだけだし意味ないね!むしろ付ける手間とか敵に素手が武器だってことがわかっちゃうからデメリットの方が大きいかも!」
確かに武器の取り扱いに関してはエアーガン以外は素人だからなれるまでに時間がかかる……振り回すだけならできるだろうけど……それにナックルに関してはラファエルの言う通りあまりメリットを感じないな。威力が上がるのはいいとしてもこちらの攻撃手段が露呈するのは面倒だ。まぁ青秋桜は既に俺の情報を入手して意味はないかもしれないが。
「あ、でも手榴弾とかどう?具体的にはスタングレネードとか?多分ボブさんが用意してくれると思うんだ」
ラファエルまでボブ呼びなのは俺のせいだな。
スタングレネードか、選択肢としてはアリ寄りなんだけど――
「俺も巻き込まれそうなんだよなぁ」
「あ~、兄ちゃん目も耳も良いもんね」
コーディネイターは伊達じゃない!……天丼ネタはともかくとしてスタングレネードかぁ。視覚の方は使うタイミングさえ考えればいいけど聴覚はなぁ。耳を塞ごうにも両手が埋まるのは嬉しくないしうっかり距離感間違えて自爆しそうだよなぁ。
「あ、スモークグレネードとかも!兄ちゃんなら視覚に頼らなくても戦えるよね!」
弟の期待が凄いです。そしてできそうな気がする俺も大概だけど。
「できるかできないかで言えばできるだろうけど……煙の中だとトリガーが見えなから回避率が落ちる」
ん?もしかしてこれって全部俺の弱点になるのか?!煙幕下での戦闘訓練も追加しておかないと。
「じゃあ――」
一緒に青秋桜狩りができなくなってほんの少しの残念な思いとラファエルが安全性の高い場所にいられるってことへの安堵感を覚えながら、2人でどうやって青秋桜狩りをやっていくのかを話し合った。
13という年齢は随分と体格がしっかりしてくる年齢だ。
おかげで身体能力も向上したことでできることが多くなった。両足の指がしっかり引っかかりさえすれば壁に立つこともできるぞ。むしろ壁の素材次第では自分で指をめり込ませることで実現も可能だ!……なんか最近コーディネイターの枠からも……いや気のせいだ。うん。
最近は弟が設計してくれた防弾装備……特に小型シールドの習熟に大体の時間を費やしている。
手のひら大サイズのシールドで銃弾を受け流すなんて絶技を実戦レベルにするのはなかなか難しい。成功率7割じゃあ実戦に使えない。遊びで7割回避ならいいけど命の掛かった戦いで7割はさすがに怖い。
目指せ1対1で全速前進状態で受け流し率9割!
最近はラファエルが改善してくれて着弾時の衝撃が緩和されたり、両手に装備されたり、合体させることができて面積が少し広がったりと楽になりつつあるから時間の問題だろう。
ただ、あの強化兵達の襲撃から感覚が大きく空けての不意討ちを2回襲撃を受けた。逆に言うとたった2回しか襲撃がなかった。なぜ回数が減ったのかはわからないが、普通にテロリストはプラント内で発生しているので優先順位の変動したのかもしれない。ひょっとすると警察がテロリストに良くも悪くも慣れてきたようで検挙率が上がったのも原因の1つかもしれない。
ついでに言えば最後の襲撃は未熟な状態でシールドをフル活用して防弾スーツの上から10発ぐらい喰らって青あざを作るほどやばかった。
さすがに不意討ちの上に包囲されての銃撃は躱しきれなかった。それと同時にラファエルの判断は英断だったと思う。もしラファエルが変わらず一緒に行動をしていたのなら死んでいた可能性が高い……ひょっとしたらラファエルが一緒なら包囲される前に気づけていたかもしれないけど、それも絶対じゃない。
その襲撃は既に半年前で、月1で暗殺者なりテロリストなりが襲ってきていた時から比べると平穏そのものだ。お小遣い稼ぎができないけどバトルジャンキーではないので平和は歓迎だ。
さて、そんな平穏の中、相変わらずジムに通う日常を謳歌していたわけだが――そこに変化があった。
「君がミゲル・アイマンだね!俺はハイネ・ヴェステンフルスだ!一手お相手願う!」
…………ええぇぇ~!初めての原作キャラ、お前かよ?!ってか俺と同じ中の人じゃん?!ドッペルゲンガーみたいに死の予兆だったりしない?!それになんか声、女っぽくないか?あ、もしかして変声期前だから?男は変声期で大きく変わるし……あれ?俺、小さい時から西川ボイスのままなんだが……というかそれがなかったら俺も原作キャラじゃないか疑惑はなかったわけで――などとかなり脱線した思考(端的に言えば混乱)が巡る。
「そ、その反応を返してもらわないと恥かしいんだがっ!」
道場破りっぽく名乗りを上げてスルーされたら……そら恥ずかしいわな。そしてちょっとその反応が可愛いと思ったのは俺が腐ってるのか?もしかして俺の弟への愛情も?いやいや、さすがにそれはない。
「ぉーぃ」
「……坊主、そろそろ取り合ってやれ」