第十四話
少々相手が予想外だったがいいパートナーができたことを喜んだ。
俺の鍛錬内容は非公開ってわけではない。一応の参考程度にはしてくれている場合もあるけど、それはあくまでそれなりでしかない。
その点、ハイネは俺に教えを請いたいと言っていただけあって俺のトレーニング方法……休憩トレーニングも実践しているし、文句も言わない。
「死、死ぬ……!」
……偶に泣き言が入るのはご愛嬌。コーディネイターはそう簡単に死なないから大丈夫だ。なんだかんだ言って俺の8歳ぐらいの時のメニューは熟せている。さすが将来FAITHになるだけのことはある。
「俺も負けてられないな。ちょっと本気で追い込んでみるか!」
「ハァ……ハァ……ハァ……」(疲れて声が出ないが何かを伝えようとするハイネ)
なんて調子で1年が経過して14歳になった。コズミック・イラで言うと66年だ。確か血のバレンタインがあったのは……70年のバレンタインだから後4年後か。たった4年か、もう4年しないと思うかは人それぞれだが、戦争の準備期間と考えるとたった4年が正解……か?ブルーコスモスともう戦争状態に近いから微妙だなぁ。
そういえばこの1年の間にまた青秋桜の襲撃があった。いやー、しばらくなかったからうっかりしてた。おかげで――ハイネを巻き込んだ上に、殺すところ見られちゃった。
巻き込んだ事自体は以前までラファエルと一緒にいたことで感覚が麻痺していた部分があった。そして青秋桜を殺してしまったことは……わざとではなかったんだ。不意討ちを返り討ちした時、うっかり加減を間違えて殺してしまった。2回目の人殺しはさして感慨はなかった……俺は。
せめて、襲撃の対象がハイネじゃなかったら、もう少し上手く捌けたと思うんだが……いや、これは未熟を理由にした言い訳だ。精進あるのみ。油断、隙が生み出した罪だ。男なら黙って常在戦場!
しかし、さすがに襲撃初回から殺しを見せることになるとは……しかも首をへし折るなんて猟奇的なのを……いくら将来ZAFTに入って戦場に出るっていっても今は俺と同じ年の13歳(事件当時)で正式に訓練を受けているわけじゃない。訓練を受けていても衝撃的だというのに。
そのせいもあって最近、ハイネとの距離が以前よりも遠くなった気がする。嫌われてはない……嫌われてはいないはず……だったらいいなぁ。
俺の独りよがりでなければ、という前提なんだけど、ハイネの反応を見るに人殺しを見たというよりも思春期のそれ……どれを指しているかは俺にも自分自身もわからない思春期特有の感情がそうさせているんじゃないかと思うんだよ。
前世の俺にも色々と心当たりが、黒歴史的なそれも含めて多数ある……が、もしこれが正解だとしても解決できるわけではない。心の問題だからな。
ちなみに俺が嫌われていないと思うのには根拠がある。
それは――
「……」(チラチラ)ハイネ
「……」(チラ)俺
「……」(サッ)ハイネ
「……」(スッ)俺
「……」(チラチラ)ハイネ
と、視線だけは感じ、そちらに目を向けるとばっちり視線が合うんだが電光石火の如く逸らされる。そして俺が逸らせばまた視線を感じるというなんとも言えない状況なんだ。どうしたらいいだろうか。
周りに相談してもなぜか生暖かい目で見られるだけで満足な回答を得られなかった。解せぬ。
そんな状態でも避けられているわけでもなく、鍛錬は一緒にしていたので時間が解決するだろうと一旦思考を放棄。
幸い今回の殺しも正当防衛が成り立ち、無罪放免を勝ち取ったので務所暮らしは避けることができた。ちょっと脱獄に興味があったりもしたけどコロニー内の刑務所はちょっと味気無さそうだし、だからって趣ある刑務所があるのは地球だからもしそうなった場合はそれどころじゃないから諦めるしかない。いっそ某テレビ番組のような設備を……金が足りないorz
「で、ボブ。珍しく部屋に呼ばれた上に2人きりを指名とは……襲うつもりならそれ相応の覚悟をしているんだろうな」
「HAHAHA、そっちの気はない!もしあったとしても俺にも好みってもんがある!」
「こんないい男に文句があると?」
「問題児の間違いだろ」
と軽口を叩き、本題に入る。
「実は坊主に要請が来ている」
「要請?」
未成年の何処にでもいる(大嘘)コーディネイターに要請とは穏やかじゃないな。
「坊主が将来軍人になろうとしているのは知っているつもりだが、間違いないな?」
「ああ、もう2人も殺しといて今更他の道は……いや、暗殺業でも……」
「おい?!今サラッと物騒なこと言ったな?!坊主が暗殺なんかに手を出したら暴走しそうだからやめろ!」
信用ないな。それほど信用がなくなるようなことをした覚えはまったくないんだけど――
「あいつ、殺しがいがありそうだ。とか言って仕事でもないのに挑んだりしないと言い切れるか?」
「……さて、要請ってことはやっぱりボブの上からか」
(否定してくれよ。任せていいか不安になるだろうが)
「ああ、厳密に言えば警察ではなく、黄道同盟……去年からZAFTと改めたが、俺はそこに所属していて、そこの上だがな」
おおぉぉ、ついにZAFT!探してやまなかったZAFT!やっぱ黄道同盟がZAFTの前身だったのか!
「まさか上はシーゲル・クラインもしくはパトリック・ザラのどっちかだったりしない?」
「坊主、なぜその2人の名前を知っている!」
「普通に情報収集した結果だ」
「……坊主、トレーニング以外のことにも興味があったんだな」
「さっきから失礼なこと多くないか」
好き放題言ってくれるな。俺も鍛錬ばかりしているわけじゃないぞ。一応独自の情報網だってある……まぁ1番有力な情報源はトレーニングジムの面々なんだけど。一緒に鍛錬しようとするとなぜかぼろぼろと情報を落としていってくれる……なぜだろうな。
「協力要請だから説明するがこの件は内密に頼む」
「大丈夫だ。拷問されても話さない」
「その手の坊主の発言は信用できるな!」
俺の信用性って随分偏りがあるような?
「現在ZAFTはプラントの独立に向けて――」
親切心で説明してくれているんだろうけど俺が知っている情報が多々あったので省略。簡単にまとめると、ZAFTは既にプラント評議会の8割を掌握していて実質一党独裁状態で秘密裏に将来立ちはだかる敵、地球連合軍とブルーコスモスを打破すべく新兵器を開発中だ!って感じだ。
新兵器!MS!ジン!いやー、ガノタレベルが低い俺でもテンションが上がる!あ、でももしかしたらミノフスキー……じゃなかったニュートロンジャマーの可能性もあるか。さすがに血のバレンタインのトラウマで開発したってわけじゃないだろうしな。あまりにも開発が速い……と思う。血のバレンタインがいつなのかは冒頭で何回も説明されたから覚えているんだが原作がいつからスタートなのかわからないし、終戦がいつなのかも覚えてないから速いのか遅いのかはさっぱりわからないんだけど。
それはともかく――
「その新兵器のテストパイロットとして参加してみる気はあるか」
「おおぅ。なかなかクレイジーだ。まさか一般人の俺を新兵器に乗せようってのか?!」
「独立に向かう場合、警察や警備、宇宙作業を行う業種から志願兵を募って軍を組織することになる。だが、もし戦争に発展した場合、その数だけでは不足することになる。そうなれば――」
「職業関係なく一般市民の志願兵を、最悪は徴兵をするようになる。それのテストケースってことか」
「まぁ、坊主が一般市民枠でいいのか甚だ疑問ではあるんだがね。俺は」
「いやいや、何処からどう見ても一般市民Aだろ」
「一般市民だったとしてもAじゃなくてJOKERの間違いだな」