第十五話
おおおおおおおおおおおおお、ジンだ!マジでジンだ!これで戦艦だったらどうしようとか思ってたけどジンだ!まだ試作段階だから不格好だけど間違いなくジンだ!タイムスリップして江戸時代でコレラ対策とかペニシリンを作ったりしてた奴じゃないジンだ!
やっぱりSEEDの世界だねぇ。一応原作キャラのハイネとあったけど、原作と雰囲気が違う。やっぱりアレか?ハイネって原作なら兄貴キャラなのに俺が同い年で更に憧れられているせいで誤差があるのかね。
ちなみにハイネも将来のことを考えると死ぬ確率を下げるためにテストパイロットにしたかったので推薦したんだけど残念ながら今回は無しってことになった。ボブも俺よりはハイネの方が普通寄りだからサンプリングに向いているって言ってたしな。ただ『信用』の点だけはどうにもならなかった。
俺の『信用』の積み重ねは10歳から始めたテロリストの死骸の山(実際は2人)で築き固められているから仕方ないね。……実はテロリスト以上に危険人物としてマークされているなんてことはない、よな?後でボブに確認……した方がいいかしない方がいいか悩むな。もしされてたらショックだし。
それはさておき――
「おいおい、なんで子供が入り込んでるんだ?一体いつからここは託児所になったんだ?」
「いや、もしかしたら外見詐欺かもしれないぞ。あれで実はお爺ちゃんって可能性もあるでしょ」
プハッ、前半のテンプレ過ぎるセリフで挑発どころか突然漫才かと思ったぞ。それにやっぱりコーディネイターもナチュラルも人間だねぇ。ある意味安心するわ。
それと後半はある意味正解。中の人的にはお爺ちゃんってほどじゃないにしろ、おっさんぐらいにはなってる。
けど、喧嘩売られてるなら買うけど――そんな心配そうな顔するなって、ボブ。さすがにPTOぐらい弁えている。後で闇討ちすればいいんだろ?わかってるわかってるって。
「あれ?なんでこんなところにナチュラルが……あ、なんだ。ただの未熟なコーディネイターか」
喧嘩は買わないけど倍にして売っておく。あれ?なぜかボブが頭を抱えたぞ。ナンデダロウナー。
「こ、こ、このクソガキ――」
「言語障害か?大変そうだな。何か困ったことがあったら言ってくれ。助けてやるから」
昔偉い人が言った。煽っていいのは煽られる覚悟のある奴だけだ、と。だからこの程度は覚悟済みだろう?
それに未熟なのは事実だしなー。多少何かやってるっぽい気配があるけどトレーニングジムにいる人達よりもお粗末なあたり多分警備業の関係者か?もしくは不良警察官って奴か?いや、それなら同業者のボブが動かないわけないか。
せっかく試作型ジン(仮)を見てテンションが上ってたのに水を差したんだ。この程度の煽りぐらいは認めてほしい。そして喧嘩を買ってくれたら免罪符を手に入れてボコれるのに。そんな大人、修正してやる!!って、な。
「後が控えている。そのあたりにしておけ」
望まぬ仲裁は別の方向からやってきた。服装や運動経験のないような体の動きから察するに開発者の類か。
とりあえず、明らかにパイロット候補の噛ませチンピラもどきはいいとしても開発者と整備士は敵に回すのは得策じゃない。なにせ自分の命を預ける機体を握っている存在だ。ボルト1本抜かれるだけで暗殺できるような人達を敵にしたくない。あの噛ませチンピラもどき達もやろうと思えばやれるだろうけど、整備士や開発者が工作するよりは成功率が落ちて、生き残れる可能性が高い……はず?それにこの試作型ジンに工作なんてしようものならどんな処罰をされるやら。非合法に開発している以上、裁判に掛けられるわけもなく私刑されることぐらいはわかる……わかるよな?
あれから試作型ジンに乗って……なんてことはなく、まずはマニュアルを渡され座学タイム、試験で合格点をもらったらシミュレーターへ。シミュレーターが合格点を超えれば念願の実機操縦へと移ることになる。新兵器開発しているのにいきなり実機なわけがないよな。
そういうわけで一通り終わらせ、試験に1発合格した。これが生産ラインにのった兵器なら簡易的な整備の方法なんかも必要だろうけど、今回は試作段階の兵器で宇宙に出るわけでもないから操縦方法以外では緊急時の停止と脱出手順と実験データを計測したりするコンソールの操作ぐらいしか必要ないのが現実だ。
そして偉大なる1歩目であるシミュレーターに乗ることになった。
「やっぱり色々と複雑だな」
前世で何度かしかやったことがないゲーセンにあるコックピット型ゲーム機の戦場の絆とは比較にならないほどの複雑なコックピットだ。当然といえば当然なんだけどな。
それで試した結果だけど――
「レスポンス悪いな」
シミュレーションのジンは俺の反応速度に全く追いついてこない。これが完成していない試作機だから、ならいい。だが、これが改善されないならせっかく憧れのMS……ジンの操縦ができる気がしない。厳密に言うなら操縦そのものはできても生き残れるのは難しい。例えるならWindows10をメモリー(ROMの方)4GBで動かすような鈍さだ。もしくはモバイル回線の制限中の高画質動画視聴か。
標的のやられ役の代名詞こと連合軍の現在の主力機動兵器メビウスが初級難易度なためか動かずに宇宙に浮遊しているのを唯一の武装であるマシンガンで一応そこそこの速度で移動しながら全て落とした。初乗りでは高成績だ、と開発陣は喜んでいた。だが個人的にはかなり不満が残る。
で、レスポンスの悪さを開発陣に相談したところ――
「ああ、今回の設定は一般人用に調整しているものだから……だと思うが、君のデータを見るにリミッターは必要ないようにも思えるな。今回の趣旨の関係上、少し趣旨から外れるがリミッターを緩めておこう。優秀なパイロットのデータは歓迎だからね」
そういえば俺は一般市民からの志願兵、徴兵を視野に入れてのテストケースだった。
「案の定って奴だな!」
推薦人という名目で監視しているボブが、ほら見たことか、と言わんばかりの表情を浮かべる。おかしい、俺は何処にでもいる一般じ――(以下略)
「その点、あちらは参考データにうってつけだ」
と噛ませチンピラもどきの1人のシミュレーターを映すモニターを見て呟く。
……これが一般人か。俺もそれほどスムーズにジンを動かせていたというわけではないが、モニターに映るそれはぎこちないなんて言葉を使うのも烏滸がましいほど拙いものだ。あれが普通……なのか?確かに一般人は無重力遊泳や宇宙服を着ての宇宙遊泳ならともかく、人型兵器を操縦するなんてことはないだろうけど……あれだな。経験もないのに偉そうな口を叩くのはやめよう。うん。
俺の今まで生活サイクルは大きく変更することになった。
スクールはナチュラルよりも優れていることを自負しているコーディネイターらしく実力主義で、単位さえ取れればスクールに通う必要はないとされているため、とっとと単位を取って終えた。今までは学生らしくスクールを片手間で楽しんでいたけど、あまり遠くない未来に士官アカデミーが設立されるらしく、その叩き台としてまたして俺が選ばれた……便利使いし過ぎじゃね?
それと驚いたことに我が弟ラファエルはなんと……詳しい配属先はわからないがZAFTの軍事開発部に所属することになった。
きっかけは俺の耐弾スーツや防弾シールドの素材を提供した病院の先生と組んで色々な俺の装備を作っていたわけだが、なんとその病院の先生は黄道同盟時代からの構成員だったんだと。それで病院の先生が助手として起用に至った。……医者が何やってんだ?と思わなくもないが、そうなんだから仕方ない。
まさか兄弟揃ってZAFTに所属することになってしまうとは……まぁラファエルは後方勤務だから命だけは大丈夫なはず。SEEDDestinyのレクイエムまでは。