第十六話
噛ませチンピラもどき達は、最初の出会い以降全く絡んでない。人伝だけど、どうやら俺のことを誰かに聞いたようで喧嘩を売るのは得策じゃないと思ったらしく、できれば別で仕事をしたいと申し出があったとか……根性なさ過ぎ、とは言いづらいか。
コーディネイターは自分達のアイデンティティを能力に頼っているところが大きい。故に相手がテロリストを何十人も捕らえたり、殺したり、それと等しいかそれ以上に人を助けたという実績があるとかなり強い発言力があるということになる。実際スクールでは俺、スクールでは1番偉い可能性(先生を含む)まであった。結局そんな強権使ったことないまま終わったけど。
「やっとMSに乗ることができる!」
シミュレーションで用意されていたミッション自体はそう経たずにクリアしたんだけどほぼ同時期に問題が発生した。それは噛ませチンピラもどき達とはまた違う別のグループが調子に乗って試作型ジンで無茶をした結果、俺の試作型ジンは中破したとのことだ。俺の試作型ジンが!!
「待ちに待ったって言葉はこの瞬間のためにあるんだと思った」
「脳天気なやつだな。兵器に乗るっていうのに」
「人型ロボットは男のロマンだろ」
ボブにはまだ男のロマンは早かったようだ。
ちなみに俺の操縦テクニックはシミュレータのデータだけなら現在のパイロット中で中の下程度らしい。訓練期間の割には異常な順位だそうだ。鍛錬が足りないな。ZAFTは大丈夫か?
ついでに士官アカデミー用教育プログラムの成績は問題なく上位に位置しているため、やっぱりサンプリングに向いてないんじゃないか?と思わなくもない。更に不安がある。連携についてだ。
軍隊ともなれば連携は欠かせない……いや、連携しているから軍隊とも言える。なのに肝心の教育プログラムが頭が痛くなる内容なんだよなぁ。ZAFTはコーディネイターのみで構成された初めての軍事組織を作ろうとしているんだが初めてである以上何かと問題があるというのも納得できる。できるが原作同様階級が曖昧なままみたいだし、能力主義、実力主義が先行しすぎて優先順位があまりにも個人に委ねられすぎて連携が疎かになりすぎている。
……まぁ、俺も人のことを言えた義理ではないほど個人主義だけど。自分以上に未熟なやつに命を預けられる気がしない。指揮官には絶対なれないな、俺。あ、切り込み隊長ならワンチャンあるかもしれないな。
一応、問題点は熱を入れてレポートにまとめて提出しているが……こういうのは多数決か偏見で取り入れられないことは多々あるから望みは薄い。むしろそのせいで成績が下がっているまである。
「とりあえずそんなことはどうでもいい!今はジンだ!」
「いや、全然良くない内容だったぞ?!」
あ、試作型ジンって勝手に呼んでたけど、まさかの公式名も試作型ジンだった。覚え直す必要がなくてちょっとお得な気分だ。人によってはプロトタイプジンって呼ぶやつもいるしジンってだけで呼ぶやつもいるけど。
「シミュレータと一緒だ」
「そうでなけりゃシミュレータの意味がないだろ」
「そらそうだ!ってコックピットまでついて来なくてもいいだろ。ボブは俺のオカンか」
「できれば問題が起きないように坊主にはできるだけ張り付いていたいんだが」
「本格的にオカンか?!」
とりあえずボブを叩き出して操縦席に座り、収納されていたキーボードを引き出してシステムチェックに入る。いやー、まさかキラ・ヤマトがストライクに乗った時にOS書き直していた光景を自分がすることになるとは、ね。……ん?なんか重要なことを思い出しそうな気が――
『ミゲル・アイマン。こちらで用意した設定値を入力してみろ』
「了解」
おっと、初めてMSに乗るの他のこと考えてたら事故の元だ。集中集中。
シミュレータを元にして導き出された各種設定値を次々と入力していく。シミュレータでは一般人用に設けられたリミッターは解除して普通の設定で操縦していたけど実機で同じように操作するのは危ないので一般人用よりは緩くなっているが通常よりも制限された微妙な設定値となっている。
余談だが無茶して試作型ジンを破損させたグループはこのリミッターを解除(セキリティが掛かっているのをわざわざ解除して)した状態で操縦して暴走させてしまったらしい。軽く殺意が湧く。それからはリミッター解除のセキリティを強化したらしい。開発者の皆さん、ご苦労さまです。
「システムオールグリーン。そちらはどうだ」
『こちらでも異常なしだ。テストを始めよう……くれぐれも無茶をしないように』
「ZAFTのために!」
『……』(そんなにZAFTにこだわりがあるタイプには見えなかったが……?)
ジンに乗るなら1度は言っておきたかったセリフだったんだ。ただ、本番だと死亡フラグが立ちそうだから今やっておいた。
「試作型ジン、ミゲル・アイマン。行くぞ!」
と意気込んだのはいいけど、実際やったのは歩行と旋回だけなんで内容は割愛。なんのトラブルもなく、普通に終わった。ただ、少しずつ設定値を調整していき、俺の最適化をしていったんだけど結局歩行と旋回だけならリミッター解除をしても問題ないということになった。
未熟なことに、このテストを合格しているのはまだ両手で足りる人数でしかないらしい。ただ歩いて旋回するだけだというのに……未熟。
それはともかく、気になることがある。それは――
「なんでジト目でこちらを伺っていらっしゃるのでしょうか、ハイネさん」
「いや、別に……最近忙しそうだと思って、なっ!」
「いい不意討ちだけど、話の言い終わりはタイミングが読みやすいから会話の途中からの方がいいぞ。っと、ハイ、関節嵌め終了」
「……すっかり関節を外されることに慣れた自分は嫌な方向に成長している気がする」
襲撃の件もあって、お互い割と本気で不意討ちをするということを実践している。常在戦場はこれから先、命を助けるだろう。ちなみに俺がハイネを攻撃する場合だけ寸止めルールだ。当てるルールだと攻撃する際に場所を選ばないといけなくなるから訓練には向いてない。顔とか見える範囲で痣とか作ったら誤解されるだろ?いい加減、外でもこれをやるせいでよく警察に通報されているから……まぁ最近はご近所さん達も慣れたのか通報されることもなくなってきたけど、やっぱり知らない人達に見られると通報されたりする。だから警察のコールセンターでは通報された場所が俺達の活動圏で、事案が喧嘩の類だった場合は年齢と髪の色、髪型を確認が最初にされるという手順ができたらしい。そして通報がある度にボブから説教されるというのがここのところのお決まりの流れだ。
「ハイネも関節を入れることができるようになったんだから自分でやってもいいんだぞ」
「……」
「まぁいいけどな」
試作型ジンに乗るようになってから以前よりもかまってやってないからこれぐらいのことはいいんだけど……そういえば――
「ボブ。例の件、ハイネに伝えなくていいのか?」
「それは坊主から伝えてやれ。坊主が強く推したから通ったことだ」
「どっちが伝えてもいいと思うけど……ハイネ、実は俺達が関わっている仕事に加わ――」
「やる」
めっちゃ食い気味に来たな。そんなに人殺しがしたいわけじゃないだろうに。
「無理する必要は――」
「やる」
「何をするか説明――」
「やる!」
何を言っても無駄な気がしてきた。これが若狭……じゃなくて若さというやつか。将来詐欺師に騙されなければいいんだけど。