第十七話
というわけでハイネも一緒に試作型ジンのテストパイロットの参加が決まってから半年。
なぜかハイネと一緒に行動するようになるとボブの監視が緩くなったことに疑問に思いつつも、ハイネの参加は思ったよりも俺自身に有意義な時間を齎(もたら)してくれた。
テストパイロットってのは案外待ち時間が多い。データ取りから解析、それを基にしてシステムの修正や更新に、それに合わせるように機体の整備や場合によっては新規のパーツの手配なんかだな。最悪、さんざん待機させられて結局解散ってこともあるぐらいだ。そこでハイネといういいパートナーを得たので待機時間は殆どをスパーリングをして過ごしている。ちなみにボブとはスパーリングはしていないかった。俺やハイネの年齢なら多少問題がある行動でも目を瞑ってくれるがさすがにいい大人なボブがそれをするのは厳しいからだ。……待機室でハイネとスパーリングしてたら他に迷惑だからって専用の部屋を用意されたぐらいには迷惑行為だ。
ついでに言えばなぜか他のテストパイロット達と距離を置かれている……いや、壁を作られているようにさえ思える。やっぱり鍛錬に誘った方が良かったか?でもハイネが――
「それはやめておいた方がいい」
と、先程まで肩で息をしていたのに一転して表情が抜け落ちて冗談を含まない声で言われたのでやめておいた。後、肩で息をすると体力回復の妨げになるからお勧めしない。それでも無理やり空気を取り込むことで酸欠状態を解決できるから実戦だと使えなくはないけど効率的ではないので用法用量を守ってお使いくださいって言ったら叩かれ――そうになって関節外してた。(定期)
ただ、トラブルらしいトラブルはなく、過ごしていたんだけど――
「……」
「いや、ジト目で見られても俺にはどうしようもないぞ」
またハイネさんが目で訴えてくる……そんな目で見られても仕方ないだろ。
「もう俺は一般人の域から外れたらしいぞ?」
「それはここに来る前からだろ!」
なぜボブといいハイネといい俺を一般人の枠組みから追い出そうとするのか。ちょっと肉体派なだけだぞ?
「だから俺に言われても、な」
一般人の域を出てしまった俺は次のステージへと進む……訓練内容もだが、物理的な場所も。つまりハイネが上がってくるまでは分かれることになる。ついでになぜかボブの監視が復活するらしい。俺はそんなに危険人物か?もしくは重要人物だったりするのか?まさかこの争いが起こったら両方物理的に黙らせる平和主義の俺を捕まえて危険人物はないはず……だよな?
ただ、ハイネには悪いけど実は結構ワクワクしている。これからは今までのコロニーの1部を使った試験場ではなく、コロニー丸々1つを試験場にしたものだからだ。今までは基本的なことばかりしていたから狭くても問題なかった。だが、これからは本格的にMSという兵器を動かす、そうなると広さが重要になる。とは言ってもこの1つのコロニーを使った試験場は別にMSのために用意されたものではなく、世界の工場と呼ばれるプラントだからこそ用意された場所でもある。未試験の状態で開発したものを送り出すなんてことはできないのだから。
「これだ!これ!このGを待っていた!!」
技術力が優れているプラントだが、シミュレータにはGの再現は行われていなかった。再現そのものはできる技術力はあるらしいけど大型化してしまう上に駆動音も大きいためブルーコスモスや連合に嗅ぎつけられる可能性が高くなるため省かれているらしい。
それに試作型ジンに乗っていたけど、データ取りがメインで基礎訓練に近いものしかやっていなかった。
それが――
「殺人的な加速だ!これぞ本物の加速とGだ!」
早速自由に操縦していいとお達しが出たので好きに動かす。セーフティーとしてコロニーの内壁に一定の距離に近づけば自動で減速と方向転換されるようになっているから安全面は問題ない――での最初から全力全開フルスロット!
なにやら警告音がなっているが機体の異常じゃないし、俺の身体にも異常はない。つまり――
「問題は全くないってことだ!!」
『おい、さっきからやめろって言ってんの聞こえないのか!無線繋がってるんだよな?!返事ぐらいしろ!』
なんか言ってる気がするが気にしない!今、俺は最高にハイってやつだ!止まらない!止められない!止まる気がない!スラスターも俺の期待に答えて推し進めてくれている!
「そしてここで急旋回!」
『バッ、バカ野郎?!そんな速度で旋回なんかしたら死ぬぞ!!』
姿勢制御バーニアを吹かせて最小限の動きで右旋回――
「うぐ―――――さ、さすが……プラント、のパイロ、ットスーツ!なんとも……ない、ぜ!」
『明らかに問題がある声だぞ?!』
若干身体が重いだけだ。この程度、体感では前世のジェットコースターとそう変わらない。つまり問題ない。
「さあ、続いては……あ、さすがに機体にちょっとエラーが出てるな。初回で無理すると怒られるだろうし、大人しく帰還するか」
いやー、満足満足。シミュレータだとどんなにリアルに近づけても所詮偽物だ。実際俺が今回みたいな速度と運動をシミュレータでやったとしても――「所詮シミュレータだからできたことだ」――の一言で片付けられていた。気持ちはわかる。だって俺の操縦している時は直線で10G、旋回時には15Gほどになっていた。いくらパイロットスーツやコックピットによって軽減されてパイロットがコーディネイターと言ってもそんなものはそう簡単に耐えられるものじゃないからな。
――帰ったらめっちゃ怒られた。それはもう怒られた。初めて反省文書かされることになった。
「反省はしている。後悔はしてない。またやると思う……と」
「全然反省してない。というかこれは反省文って言っていいのか?」
「ちゃんと反省はしているって書いてあるじゃ――おっと?!危ないって」
「くそ、ボケるならツッコミを躱してカウンターで関節を外そうとすんな!」
そうは言っても今までボブに関節外しが成功したことないから……そのうち決めてみせる。(使命感)
ちなみにボケているつもりはない。まぁ確かに試作機であんなことは悪いと思っているし、初乗りでやることでもないとは思う。テンションが上がって悪ノリしたのも間違いない。でも、将来間違いなく必要な無茶だと確信している。もしこれを怠れば――死ぬ、と。
「坊主はそこらの大人よりもシビアな考えだな。まだ戦争になるって決まったわけでもないのに」
「え?ならないと思ってるのならもう1度下っ端からやり直した方がいいよ」
「確かになぁ。お互い妥協する気がないからな」
「MSなんてもの作ったんだからなおさら妥協できないね」
銃しか武器がないってんなら戦争する気にならなかっただろうけど、わざわざ新兵器を開発して、しかも将来的には情報が漏れてナチュラルも投入、もしくは対抗手段を見つけ出される可能性を考えればあまり長い間待っていられないという現実もある。今も機密保持にかなり神経を尖らせているのを知っている。
「ちなみにだが坊主。最高Gが17を記録したそうだぞ」
「ふーん、あれでそんなになるのか」
「軽すぎるぞ!おかげで最高速度に制限を設けることになった!」
「ええぇぇ」
「ただ、一部の開発者が坊主の様子を見てだが専用機を開発する話も出てきている」
「おお!」
専用機!なんてロマン!どうしよう!パーソナルカラーってZAFTにもあったよな?申請する必要とかあるのか?何色がいいかなぁ~。
「ただ、あまり無茶なことを続けるとその話は流れる可能性が高いぞ」
「わかった。時々することにする」
「そうじゃない」