第十八話
大きな事故もなく15歳を迎えることができた。
あれからひたすら試作型ジンに乗る日々……と言いたいところだったが、俺の無茶な運転の代償としてしばらくお預けをくらう。その代わりに試作型ジンのメンテナンスの整備をみっちりすることになった!ガッデム!
「と言いつつ喜んで整備してたって聞いたけど」
「喜んでいたつもりはない。ただ、命に関わるからな。手は抜かない」
宇宙で被弾してMSが動かず漂流、酸欠で死亡……なんて終わりは嫌だからな。せめて壮絶に戦って死にたい。もちろん死ぬつもりはないが。
「ハイネもちゃんと整備の仕方覚えておけよ」
「そりゃ多少は覚えてはいるけど……さすがにミゲルみたいに1から組み立てまで覚える気はないぞ」
俺も別にそこまで習得するつもりじゃなかったんだけど、整備のおっちゃんと意気投合して話していたらいつの間にか分解から組み立てまでできるようになってしまった……本当にそこまでやるつもりはなかったんだが……さすがコーディネイター、覚えるだけなら高スペックだ。発想力は本人に依存するからあまり良くないんだけどな。おかげで指揮能力は教本通りになって苦労する。唯一の救いは状況把握と決断が速くて普通の奴らには遅れを取らない……はずだ。
「試作型ジンの本格運転にも随分慣れたな」
「まだミゲルに勝ったことないけどね」
ハイネは俺が本格的に訓練を受けて3ヶ月ほど経った時に無事一般人枠から脱して合流を果たした。おかげで待ち時間が暇じゃなくなった。それにやはりさすが原作キャラ、しかもFAITHを任されるだけあってかなり強い。おかげでいいトレーニングになっている。
ハイネをもっと、もっと鍛えなくてはならない。原作のような無様な死を回避するために。あの死はシン・アスカはフリーダムが乱入したことで起こったみたいなことを言っていたけどアレは間違いなくハイネの失態だ。フリーダムに落とされたのなら機体スペックやパイロットの能力差とか言い訳がまだできるけど、身体能力が高いだけの情緒不安定な思考能力が全うではないステラ相手では……正直、ない。友人の死なのに涙が出そうにないぐらい、ない。
だからこそ俺が鍛える。師弟のようなそうでないような友人が生き残れるように!
「というわけでシミュレータに付き合わないか」
「ミゲルが言わなければ俺が誘うつもりだった」
「それは重畳。本当は実機でやりたかったが……」
「近い内に正式にジンが配備されるからって試作型ジンは全部新人達に回されたからな」
そう、とうとうあのジンが完成したようだ。ちゃくちゃくと戦争の足音が聞こえると同時に本物のジンが乗れると思うと胸が高鳴る。ただ、1つ懸念材料があるとすれば――
「試作型よりレスポンスが良ければいいんだけど……」
「ミゲルの反応速度に追いついてないからな」
「そっちだって同じだろ」
「まあね。でも専用機はまだ先の話みたいだし、しばらくは我慢するしかないんじゃないか」
「その我慢で死ぬのは勘弁してほしいんだが、戦場なんてそんなものと割り切るしかないか」
準備していても準備し足りないというのはまさにこのことか。万全の状態で戦えることは少ないとも言うし。専用機を用意してもらうだけでも贅沢な話か。
そういえば、パーソナルカラーが欲しいと思ったけど、SEED無印を生き残れたらの話だけどフェイズシフト装甲が流行ると意味がないのか?でもSEEDDestinyのエース機はほぼ全てフェイズシフト装甲系列だし……まぁ原作を見る限りハイネが乗っていたグフイグナイテッドはフェイズシフト装甲じゃなかったぽいけど……なんでFAITHでグフイグナイテッドみたいな量産機乗ってたんだろうな。アスランなんて復帰直後にセイバーだし、FAITHでもないただの赤服のシン・アスカは最新鋭のインパルスだし……ハイネ冷遇説ある?
それはともかく、補給が脆弱そうなZAFTだし、いっそ量産機をキメラ化させ続けて戦場で補給に困らない機体を目指してもらうのもありかもしれない。いくら俺でも相手が戦車やMS相手に身体一つではどうにも………………ロケランがいくらかあったらワンチャンあるかもしれない?ああ、戦車はワンチャン身一つでもなんとかできそうな気も……。
ジンだ。
アニメで見たジンが目の前にいる。
初めてMSを見たのは試作型ジンだった。しかし、思った以上に知っているMSを見ることは心に来た。
格好いいじゃないか。前世からザクやジム、ドムにネモのような量産型派に属していた俺にはドンピシャだ!やられ役バンザイ!
ただ、1つだけ気になることが――
「トサカ、デカ」
ジンの角ってあんなにデカかったか?ザクより大きいイメージではあったけど、あの角ってザクと同じでアンテナのはずだがミノフスキー粒子は集積回路を破壊する可能性があるほどの阻害効果があるけど、ニュートロンジャマーは電波阻害効果しかしないが、その電波阻害効果はミノフスキー粒子より強いのか、それともただレーダーの類が未熟なだけか、どちらだろうな。……ああ、そういえば地球にニュートロンジャマー発生装置を打ち込んだのは数百のダミーと数基の本命で、その数基だけで地球全土をニュートロンジャマーで覆ったんだから結構凄いのかもしれない。
「ミゲル、シッ!」
おっと、ハイネに怒られたな。
実は今、お偉方の演説の真っ只中なんだ。しかも、そのお偉方というのが……シーゲル・クライン、その人だ。
原作キャラ2号だな。好々爺っぽい見た目に反してなかなかの過激派で、評議会議長としてニュートロンジャマーを地球にばらまいて大量虐殺を主導した……んだけど、思った以上に精神に来たのか日和って政界から退いた根性なしで娘は犯罪者というかテロリストになって自分を殺す引き金となったという感想に困る人物だ。
演説内容はよくある決起集会的なもののそれだな。長らく虐げられた我々が今新たな武器を~とか、コーディネイターによるコーディネイターのための国を~とか、ありきたりなことを言っているが……頭はいいのに短絡的なコーディネイターが多いため感化されている人が多い。正直に言うと俺はどちらかと言うと覚めるわ。何度目かわからないけどコーディネイターも所詮は人間なんだと思う。自分達が行っている所業は既に蔑んでいるナチュラルが全て通ってきた道(歴史)だということを知らない。例え知っていても自分達は違うという、それこそ愚かなナチュラルが通ってきた道(歴史)であるという自覚が足りない。
まぁ、知っていてなお全速力で走り抜けようっていう俺の方が愚者なのは間違いないがな。
さて、今演説しているのはシーゲル・クラインだが、その傍らには原作キャラ3号となるパトリック・ザラもいる。なんというかシーゲル・クラインと比べるとお堅いイメージだ。まだ奥さんが生きているから過激派ではない……のだろうか?見た感じはやはり過激派っぽいけど。
心の中で解説しているのは演説を聞いていると眠くなるのを堪えるためである。早くジンに乗らせてくれ。
……ところで、なぜか時々パトリック・ザラの視線が俺の方に向いている気がするのは気のせいか?もしかして俺のこと知っているのかもしれないな。一応テロリスト刈りでそこそこ有名人だからな。
実は原作キャラ4号であるアイリーン・カナーバもいたのだがミゲルの記憶の中には存在しなかった。