第十九話
演説も終わってやっとジンの時間がやってきた!
ちなみにお偉方も見ていくらしい。パイロット達の間には下手なところを見せられないと、意気込みとも緊張とも取れる空気が漂うっている……が俺はそれどころじゃない。ジンだぞ。ジン!ゴンの親父でもコナンの黒の組織でもなくSEEDのジンだ!
浮かれて浮かれて乗った感想は――
「今更だけど試作機とは随分違う」
事前に渡されていたジンと試作型ジンとの比較データでは機動性12%、運動性13%アップ、重量10%軽量化、耐G性能向上など軒並み性能アップしているので使い勝手が違って当然だ。
動かしていて気になるのはやっぱりレスポンスだが、完璧なんて言えるものではないけど改善はされている。努力の足りないコーディネイターには丁度いいか?と思う程度には仕上がっている。予め試作型ジンでまとめられたデータを基にして設定値が反映した結果ほぼ全項目で上限値張り付き状態でこの感想なのだから、プラントにはぜひ次世代機の開発に勤しんでいただきたい。
「機体性能は妥協するとして……問題はこれだよな」
せっかく色々と性能アップしているのに……この剣だ。格好いいし、威力はさすがのプラントの技術力で申し分はない。申し分はないのだが――
「重いんだよな」
せっかくジンの性能を向上させてもあの剣が台無しにしている。ちなみに試作型ジンの時に剣はなかったので気にしなかった……というか試作型ジンにあの剣を持たせると機動性が落ちることになる。そもそも近接武器って必要あるのか?ほぼお守りにしかならないだろ。古来から弓、弩、銃、大砲という遠距離からの武器が世界を握ってきたことからも自明の理だ。ニュートロンジャマー前提の武装だってことだろうけど、戦闘機や戦艦に剣の間合いまで詰める手間を考えればそれよりもマシンガンの弾倉を1つでも、いや、この際重くするんだったらマシンガンを2丁ぐらい持った方が活躍できそうだ。ジンの腕の関節のことも考えればなおさらだ……接近戦で言えば切実にビームサーベルが欲しい。軽くて威力も申し分ない。とはいえ実現するのは当分先だろうけどな。ガンダム敵対国の宿命ってやつだ。
「それに制動を掛けるのに推進剤が消費されたり速度が落ちたり扱いが難しいな」
使いこなすこと自体はできるだろうけど、俺が想定するジンの運用速度では近接戦闘なんてしないし、万が一したとしても腕が折れるんじゃないか心配だし、腕を振るうってことはそれを止める必要があるけど、宇宙だと無重力だから何らかの方法で制動を掛けないと機体が剣を振った格好で回ってしまうことになる。そんなことに推進剤やエネルギーを使っている場合じゃないだろ。いい加減動力源がバッテリーなんだから。
ああ、後、M66キャニス、短距離誘導弾発射筒とかいう要塞攻略用の手持ち武装のミサイルランチャーがあるんだが……あれはいらないだろ。なんで前線で戦う機動戦力に要塞装備?やりたいことはわかるけど宇宙戦想定なら普通に戦艦から長距離誘導しろよ。障害物なんてほとんど無いんだし、最悪は数撃ちゃ当たる。ざわざわクッソ重たいミサイルを持って、しかも両手が塞がった状態なためマシンガン装備できず接敵したら逃げるかM66キャニスを放り出して腰にマウントできるらしいマシンガンに持ち替えるかのどちらかしかできない。放り出したのを拾うって宇宙だと結構大変なんだぜ。え?敵の機動戦力は排除する?なら余計に戦艦から撃ちゃいいだろ。
その点、M68パルデュス、3連装短距離誘導弾発射筒とかいう足につけるザクの3連装ミサイルポッドを彷彿させる武装はいい。脚部装備という点で着脱可能だし装備状態でも戦闘が可能で攻撃力も高めと使い勝手が良い。
後、M68キャットゥス500mm無反動砲っていう一言で言えばバズーカ、は攻撃力が高くてマシンガンと同時持ちができて扱いがしやすくていいし、何よりマシンガンと共に腰の後ろにマウントすることができるのもの高ポイントだ。
それとマシンガンの公式名はMMI-M8A3、76mm重突撃機銃って言うんだが、原作と同じなんだろうか。SEEDの設定資料ってあんまり見てなくて原作通りかどうかわからない。それと面倒なんでマシンガンで十分だろ。
「さて、名残惜しいが終わりか」
有象無象のコーディネイター達が操るジンをなぎ倒していたら推進剤とエネルギーが危険域に達して仕方なく帰投する。
それにしても歯ごたえがない……ん?もしかしてここにいるメンツが全員じゃないのか?ラスボスことラウ・ル・クルーゼとか砂漠の虎さんとか黒い三連星もどきがいない……そういえばZAFTのエース級って他に誰がいたっけ?アークエンジェルとクルーゼ隊の話が軸だから他のエースがわからない。
「じゃ、お疲れさん。後は頼んだぞ」
「ああ……それにしても凄いもんだね。小さい英雄も本当の英雄になっちまいそうだ」
コックピットから出て、早くもジンに取り付いてきたメカニックにねぎらいの一声掛けつつ一旦休憩室へと……と思ったら俺だけ呼び出しを受けた。
演説中見られていたからパトリック・ザラに呼ばれたのかと思ったけど、呼んだのはジンの開発チームの人だった。どうやら高成績者達と面談して専用機……はやはり先らしいがジンのカスタマイズや専用武器などを開発してくれるという話の内容だった。お偉方との面会は面倒だけどこういうのは歓迎だ。
とりあえず装甲なら多少削ってもいいから機動性とレスポンス向上、継戦能力の改善のために推進剤増槽を増設と姿勢制御バーニアの増設と推力の向上を要請したんだが――
「先程の模擬戦の映像と過去のデータを見てはいたが……正気かね。とてもではないが常人に操れるものではないぞ」
「根性が足りない。鍛え足りない。努力が足りない。血反吐が出てからが勝負!」
(これだから体育会系は!)
って顔しているな。成績優秀な俺はなぜか脳筋って言われるんだが……不思議だ。事実しか言っていないのに。
「要望はわかった。善処しよう」
「それはありがたい。ああ、それと後で武装面でのレポートも上げるんで読んでもらえるかな」
「若いのにしっかりしているな。弟さんが自慢しているのも納得だ」
俺を脳筋扱いした奴とは別の人はラファエルと知り合いらしい。
「おっと、ラファエルをご存知で」
「ああ。共に開発しているよ。今のジンじゃ君が満足できないだろうって言って新しいスラスターユニットを、ね」
ニヤリッと笑って告げられた内容は正しく俺が望むものである。
「さすが弟様。俺のことがよくわかっているな」
だが、その期待が偶に怖い時もある。本当にトールギスみたいな人を殺せるような加速性を持たせないでくれよ。さすがに死因が弟の開発したスラスターによる事故死ってのは遠慮願いたい。