第二十話
身近で1番ZAFTに詳しいボブに聞くとやっぱり俺やハイネがいるコロニー以外にも人がいるのは確かなようだ。そりゃそうか、俺達は下から上がってきたんだからこんなに上に辿り着くわけがないよな。どうやらその別枠というのは原作で言うところの赤服に当たるようで現在の赤服は成績優秀で信頼できる家柄で固められているらしい。結局縁故採用かよ、と思わなくもないがまだ秘密結社の段階の上位層なんだから仕方ないか?
ともかく、エリート様は俺よりも強いやつがゴロゴロしているみたいなので安心した。
「いや、坊主よりも強いやつなんてゴロゴロはいねーよ」
コーディネイターが世界一多いプラントでそんなに少ないわけがない。(確信)
なんて話を聞いて更に自己研磨だ!と調子に乗ってガンガンジンを乗り回してたら割り当てられた推進剤がなくなって模擬戦どころか宇宙遊泳すらできなくなった俺はいつの間にやら16歳になっていた。本当にいつの間に。余談だが、ハイネは未だに声変わりせずに女声だ。西川さんの声っぽいのになんでだろ?そういえば変声障害って言うのがあるらしいと話に聞いたことがある。それか?病院を勧めた方がいいんだろうか……いや、もしかすると今の声が気に入っている可能性があるな。そもそもハイネの両親にはいくらか世話になっているけど、ハイネを溺愛している。ZAFTに入るのもハイネが押し切った形で渋々承認したほどだ。そんな親が子の変声障害をただ放置しているとは考えづらい。やっぱり本人の意思によるものか。本人が気にしているかもしれないから敢えて触れず過ごしてきたが間違いではない……はず。
なんてことを考えつつ、もうすっかり日課になったMS格納庫に足を運ぶと――俺の設定がピーキー過ぎて一々元に戻すのが面倒になってようでいつの間にか専用機扱いになったジンがいつもの風貌とは違っていた。
「おいおい、随分洒落たもん着けたじゃねーか」
いつも重苦しく腰にぶら下げている俺が酷評している剣、重斬刀。刀という名前の割に両刃であるそれは何処からどう見ても西洋の剣というネーミングセンスを疑うものがなくなり――
「本当に刀になってるじゃん」
日本刀の特徴の片刃で刀身が反っている……本当に日本刀の形になっていた。しかも鞘まで用意されているあたりよくわかっている。
「おう、ミゲル。来たか」
「整備のおっちゃん。あれ、どうしたんだ?まだ専用装備の製造はまだ先立って聞いたんだけど」
要望は出したがその返答はお役所の返事みたいなテンプレ文だったから期待はしてなかったんだが。
「アレはお前さんの弟が開発したものだそうだぞ。愛されているな」
「……弟様はノビノビとできているようで安心したよ」
ちょっとノビノビし過ぎな気もするけど、身体が弱くて部屋からあまり出れなかった頃から考えれば幸せなことだ……と思いたいな。人殺しの道具を開発していることを思えば不安にはなるが。
「重斬刀に比べて耐久度は落ちたが切れ味の向上、そして軽量化に成功した。更にはあの鞘には加速装置が内蔵されていて素早い抜刀、初速を補助してくれるはずじゃ」
「扱いが難しそうだが、使いこなせればいい武器になりそうだな」
「重斬刀とは扱いが違い過ぎるからまた1からデータ取りをすることになるが、いいか」
「弟様が作ってくれたものを使わない道理はないだろ」
それにしても弟様は中二病的にKATANAに目覚めたのか、それとも実用性を考えた結果こうなったのか、どっちか気になる。もし中二病的なものならこの先、送られてくる兵器を装備していったらジン・黒歴史仕様なんてものになる可能性が……し、しかし、そうなったとしても俺は……俺は……。
弟様からKATANAを貰ってからは大変なことになった。当然といえば当然だが、1人だけ特別な装備をしていたら悪目立ちするのは自然の摂理。しかもパイロットが若いとなったら可愛がりの対象になっても仕方ないことだ。実力主義の弊害としてプライドを肥大化させたコーディネイターならなおさらだ。しかし、実力主義と肥大化したプライドというのは両立が難しい。なぜなら実力主義というのは厳しい現実と戦い続けることと同義だ。となると肥大化したプライドは自分以上の実力者という壁にぶつかった時、どう解決するかで大きく分かれる。1つは、肥大を筋肉に変えて壁を乗り越える。2つは、壁を躱したり見なかったことにして肥大を保つ、そして最後に――
「脂肪同士が集まってその体重で壁を壊そうとする。戦術的には間違ってないけど、相手の実力を図り間違ってたら余計に惨めだな」
俺を集団リンチしようとしてプライドデブを返り討ちにした。その数は10人……さすがに1対10でろくな有効打を与えられていないのは未熟過ぎる。
「よし。決めたぞ。お前達のその弛んだ根性を叩き直してやる!もちろん拒否権はある!意義がある者は名乗り出ろ!沈黙は肯定と取るぞ!…………誰も異を唱えなかった根性だけは認めてやる!だからと言って手心を加える予定はない!最低でもZAFTの新兵として相応しい実力と精神を叩き込んでやろう!」
「ミゲル……全員気絶しているだけだぞ」
そんな馬鹿なことあるわけがないじゃないか。奴ら曰く、偶然テロリストを捕まえただけのラッキーマン、テロリストはマッチポンプ、親の七光り(?)、実はサイボーグ、コックピットには乗らずAIが代わり操縦しているなどと卑劣漢のように罵っていた俺が少し撫でただけで自称期待の新人の彼らが気絶するわけがない。そうだろ?…………ほら、異論はないらしいぞ。誰も否定しない。
「だから気絶しているだけ――」
「あ、ちなみにハイネも彼らに追いつかれないためにもメニューを倍な」
「……」
「もちろん俺も付き合うさ」
ただし3倍でな。他人に厳しく、己には更に厳しく。これが俺の教育方針だ。それに本格的に俺とラファエルが働き始めたことで資金面に余裕が出てきたから自分用のメディカル機器でも買えばそれぐらいはこなせる筈だ。一応ZAFTでもメディカル機器は用意されているが、基本は治療に使われるので体調管理で好き放題使っていいものではない。
そういえばコーディネイターの謎なんだが、筋力が数値的には増えても外見的な変化は乏しいんだ。まだデータ的には人間の範疇に収まっているけど、明らかに不釣り合いな体型をしている。わかりやすく言うとハンマー投げとか重量挙げの選手みたいな筋力があるにも関わらず肉体派アイドルぐらいの体型ぐらいで収まっているという話だ。違和感あるだろ。まぁあまりムキムキになるのはちょっと遠慮願いたいからありがたい仕様だけども。ちなみにジンの操縦桿はパイロットが鍛えている関係で無駄に力があるせいで緊張状態で力一杯操縦桿を握ったり押したりしても壊れないように相当頑丈に作られている。具体的には拳銃ぐらいの弾なら至近距離じゃなければ弾くぐらいだ。取り外しできるようにしたら凶器になること間違いなしだ。
「お、おう。目標はミゲルだからな!」
随分間があったが、その意気や良し。むしろ俺を追い抜くのもありだぞ?無論そう簡単に抜かれるつもりはないが……それと野次馬達。ハイネの宣言で「え、マジで?」とか「これ以上化け物はいらないんだが」とか「脳筋目脳筋科脳筋属」とか好き放題言ってるとお前達も参加させ――――逃げ足だけは速い奴らだ。