第二話
よし!俺はMSに乗りたいという願望と家族も守れるという目的と金を稼げるという俗物的欲求のために軍人になる!
と意気込んで進路を軍学校へ進むべく下調べを……と思ったんだがそんなものはなかった。
あれ?そういえば軍……というかZAFTって聞かないんだけど……と思い、調べてみた。結果、影も形も存在しないんだが……なんでだ?と身体は全ての資本だ、と時間を無駄にしないために鍛えながら1年ぐらい悶々としていたんだがあることに気づいた。
現在のプラントはプラント評議会というのはコロニーの代表が集まってできた運営組織……自治体のようなものだ。
つまり、プラントはまだ国というレベルにまで到達していないプラントは軍、つまりZAFTが存在しない……ということではないか、と。
そのプラント評議会も実のところ非合法のもので、本来の運営組織というか持ち主というか……であるプラント建設時に投資を行った国の集まりを指す理事国はプラント評議会を疎ましく思っていて、軍を持つと本格的に対立をしかねないため、組織されていないのかも知れない。
正直この推測が正しいかは不安だ。もしかするとSEEDと似した世界なのかもしれないし、平行世界で結構序盤から変化しているかもしれないし、もしかしたら俺みたいな転生者によって歴史が変わっている可能性もある。
というわけで――
「とりあえず俺の記憶にある人物を調べて見るか」
まず思いついたのはZAFT側の人物で思い浮かんだのはアスラン・ザラなんだが当たり前といえば当たり前だが原作スタート時でもアスラン・ザラは若いのに原作スタートどころか戦争すら始まっていない今だと子供のはずで、子供の個人情報なんて俺が調べられる情報では探し出せるはずがない。小学生の同級生が引っ越した場合、本人から教えられる以外に足跡を辿ることなんてまず不可能だからな。
だが、アスラン・ザラの父親……名前は忘れたが……はザラ議長と呼ばれていたのは覚えていたので姓をザラで絞り込み現時点でそれなりの地位についている、もしくは活発に活動している人物を探したら……見事にヒット。
「パトリック・ザラか」
確かにそんな名前だったな、と思い出す。
Destinyでコロニー落としをする黒い三連星仕様ジンっぽい……確かジンハイマニューバ2型?に乗って出てきた顔に傷があるキャラがパトリック・ザラの取った道が唯一のウンタラカンタラ言ってたな。
ただその件のパトリックさん、シーゲル・クラインと共にプラント評議委員を務める傍ら黄道同盟なる組織で色々と企てているようだ。
このシーゲル・クラインってクラインっていうぐらいだからラクス・クラインの関係者だよな?
つまりこの黄道同盟がZAFTの前身だということだろう。多分
黄道同盟の活動内容はおそらくプラントの独立、もしくはコーディネイター主権の国家の樹立ってところだと思うが、さすがに反政府運動の話を6歳の俺が調べ上げるなんてことはできない。むしろ秘密結社っぽい黄道同盟の存在を突き止めた俺を褒めてくれ。
「なにはともあれこの世界はガンダムSEEDを土台としている世界であることは間違い無さそうだな」
まぁ転生した俺がいる段階で歴史がどうなるかなんてわからないが……いや、戦争が待っている世界で安心というのもなんだけどな。
とりあえず目標は不在だったがそのうち出てくるだろうということで現状最も軍に近い警察を手本とすべく、プラントの警察官が通うことを必須とされているトレーニングジムに通うことにした。
幸い、悪人から守る正義の味方の警察官を子供にも知ってもらい、尊敬を集めようと12歳以下は無料で通うことができるので俺も入門……後で考えると、これ、後々の兵士予備軍作りだった可能性が高いな。
せっかく軍人になるならMSのパイロットを当然目指すが、兵士ってのはパイロット以前に軍人。ならば肉体を鍛えておくことは無駄にならないと思ってのことなんだが――
「未熟!」
ローキックで足にダメージを与えて膝を折らせ――
「未熟!」
出した足をそのまま体格の差で不格好になってしまうが地面へ踏み込んで腰を回して丁度いい位置に来た鳩尾に拳を叩き込み――
「未熟!」
鳩尾への衝撃で上半身が前へと倒れて来たのでちょうどいいところに頭部が降ってきたので膝蹴り……は体勢と距離的に無理があるので少し後ろに跳びながら側頭部に蹴りを入れる。
「未熟ッ!」
ドスンッという音と共に倒れる木偶の坊……将来警察官になると言っていた割には傲慢な先輩(14歳)。
いやはや、わかっていたこととは言え俺の身体……コーディネイターってのは恐ろしいポテンシャルだと改めて思う。
ゲームなんかでは攻撃した後の待機時間……ディレイと呼ばれたりする(厳密にはディレイは遅延という意味だが)……が存在するが現実でも同じで自分が思っている以上に身体が動かず、特に全力で行った場合は顕著に出る意識と身体のズレがあった。
それがもう本当に思い通りに動く。キレが違う。
前世でキックボクシングを嗜んでいたからこそわかるこの違い。
そのズレは鍛えた上に実戦経験を積まなければ養われないものと言われていたが……さすがはコーディネイター。最初からゲタを履いているようなものだな。
こりゃ本格的に鍛えてたらいじめっ子を懲らしめるのも大変そうだ。
「おい、まじかよ。あれが6歳の動きってのか」
「それよりあの年齢で暴力を振るうのに躊躇しない方が問題のような」
「プッ、日頃偉そうにしてるのにあのザマかよ」
「言ってやるなよ。さすがにあんな子供があんな動きするなんて誰も思わんだろ」
「けどよ。ガキのロー1発で膝ついたのは遊びだろ。そんなに効くわけがねぇ」
――未熟。
あまりにも未熟。
対戦相手だった男も野次馬の男達も未熟。
俺を子供と侮っていたにしても未熟だし、周りの野次馬の動きを盗み見たが……やはり未熟。
コーディネイターとして生まれてまだ短いが、今まであったことがあるコーディネイターは大体自身の能力に胡座をかき、突き詰める努力をしていない。
いや……真剣にしているつもりなんだろうが、それはナチュラルの感覚で、でしかない。多分教育の質の問題だろう。
コーディネイターは歴史が浅いため、手本とするだけの経験がない。なにせまだコーディネイターは4世代までしか存在しない。
どうしても何かを学ぶとなるとナチュラル基準のものになってしまう……いや、逆にそのナチュラル基準を知ってしまって下を向くことになってしまって上を見るコーディネイターが少なすぎるんじゃないかと思う。
特に身体能力に関しては顕著だ。
実際ここまで俺が徹底した追撃をしたのは完全に戦闘不能にするのにこれぐらいはしておかないといけなかったからだ。コーディネイターは練度はともかく身体は丈夫だからな。決してあまりにも傲慢な態度で絡んできたことは関係ないぞ。
ちなみにこれが研究開発の話にするならその性質上、ナチュラルと比較するんじゃなくて、深淵を覗く感じで深みにハマっていくから問題には……問題には……ならないか?なんかマッドな香りがプンプンするんだよなぁ。具体的には結構頻繁に某コロニーではデブリが当たるらしいんだが……デブリが当たる?日本で揺れを感じる地震より多い回数を生命線とも言えるコロニーで?……ないだろ。実験の失敗とかで爆発が起きてるんじゃないかと予想している。だからこそMSやニュートロンジャマーとキャンセラー、ジェネシスなんかを開発できたんだろうけども。
話が逸れたな。
とりあえず――
「さあ、次の挑戦者求む!」
「ガキが調子に乗ってんじゃねーぞ」
「そいつはここじゃ最弱だっつーの」
「おい、誰か相手してやれよ」
「さすがに子供相手はちょっと……」
と威勢が良いことを言っていた割には全然出てこない。
これはあれだろうな。さすがに子供に負けるとは思わないが苦戦するの格好悪いし万が一負けると……とか考えてるな。
気持ちはわかる。逆の立場なら俺も躊躇するからな。でもかっこわりいぞ、お前ら。
とはいえ、こうしてジムデビューは成功(?)した。
そういえば公園デビューをした覚えがないような?