第二十一話
とりあえず低能コーディネイター集団を軟禁して片手間で鍛えつつも軽斬刀――しばらくは刀と呼んでいたんだが、周りからせっかくの専用武器なんだから名前をつけろと言われて重斬刀より軽いから軽斬刀と名付けたら周りから残念なものを見るかのような視線を一身に受けた。あれほど視線を感じたことは今までにない。やっぱり由緒正しき斬鉄剣がよかったか?と後悔した――のデータ取りに精を出していた。
本当は低能コーディネイター集団に掛り切りになる可能性を感じていたが、残念ながら低能は低能だった。俺的にはかなり手を抜いた訓練メニューにも関わらず達成できないどころか逃げ出す始末。改めてハイネはありがたい存在だったのだと実感した。
「な、何を突然言っているんだ?!」
「ありがたやありがたや」
「拝むな!」
どうしたものかと悩んでいるとそこに手を差し伸べてくれたのもハイネだった。ハイネが低能コーディネイター集団の訓練メニューを考えてくれると申し出てくれて任せてみた。人に教えることは自身の成長につながるという話もあるし、いい経験になるだろう……と思ったんだが……なぜだ?なぜ俺の時は逃げ出したくせにハイネの訓練メニューなら受けるんだ。いや、ここは素直にハイネに才能があったのだと認めよう。決して俺に教える才能がないわけじゃない。事実ハイネはついてきているからな。
話が大きく逸れた。そんなこんなで俺は今まで通り己の研磨に勤しんでいるわけだ。
「しかし軽斬刀を使いこなすのは難しいな」
「十分使いこなせていると思うが?」
「整えられた環境で行う戦闘だから模擬戦というんだ。実戦なら今のままだとメビウス3、4機斬ったら使えない可能性が高い」
人間が使う刀同様、上手く刃筋を立てなければ、良くて斬り裂けなくても装甲にある程度斬り込ませることはできる。だが、斬り裂けないということは刀身が食い込んだままになってしまうことになるだろうし、そもそも多くの場合は装甲を上滑りしたり弾かれたり、悪ければその際に刃こぼれや曲がってしまったり、最悪は折れたりしてしまうだろう。更に鞘に仕込まれた加速装置による加速も無理な使い方をすれば腕が引きちぎれる……ことはないと思いたいが、関節部分へ大きな負担を与えることになる。そうなるとマシンガンやバズーカなどを使うのに支障が出るもしくは気にしなければいけなくなるというのはパイロットに負担を強いられる。……ただし、そもそもメビウス5機以上を近接戦闘で撃破する機会がどれほどあるかは不明だが、念には念を入れておいて損はない。将来的には対MS戦も想定されることだしな。本音で言えば連合製のMSが出てくる前に終戦にまで漕ぎ着けたいところではあるが、難しいか。
「う~ん、やっぱりモーションデータだと限界があるか。大部分の操作をマニュアルにしてデータはあくまで補助に回すか」
「そんなことができるのはごく一部のパイロットだけだろうけどね」
嘆かわしいことに大部分の未熟なコーディネイターは予め自身が作り出したモーションデータを状況に合ったものを選択して使っている。それが効率的だから、という理由なら俺も文句はない。だが、できないからと努力もせずに言うというのは怠慢としか言いようがない。事実――
「その一部にハイネ自身も入っているだろ」
「まぁ、大変だけどな」
ちなみにハイネも俺と同様にパイロットとしての技量はジンの限界値に到達しているため、やはり同じように事実上の専用機が用意されている。そんな俺達の最近の訓練内容は軽斬刀以外では自分の能力向上させているというよりはジンへの最適化をしているってイメージが強く、もっぱらOSの調整と新たなアルゴリズムの構築or軽量化のため削除、そして試運転、また調整構築削除……という流れになっている。こんなことをしているせいでパイロットごとにOSはともかくアルゴリズムが違い過ぎていきなり他人の機体に乗ると基本アルゴリズムのみで戦わなければならなくなるから大きく戦闘能力が下がる。原作では語られてなかったが、多分連合がMSのOS開発に時間が掛かったのはこのあたりにあるんじゃないかと思っている。基本アルゴリズムだけで機体を動かすのは動かせないことはないけどパイロットに掛かる負担は結構なものでコーディネイターでも使うことはできるが使い熟すことは難しい。平均スペックが劣るナチュラルなら使うことすら困難なはずだな。しかもジンそのものじゃなくてオリジナルのMSを開発しようってんだからOSも使い回しできないだろうからストライクのあの有様は当然の末路だったわけだ。
「そういえば聞いたか。近い内に議長選挙が行われるらしいぞ」
へぇ、前世日本人なせいかあまり政治に興味ないけど、もしかしてそろそろシーゲル・クラインが議長になるのか?
「そうらしいぞ。評議会そのものが7割近くがZAFTに所属か支持しているって話だし、この前の演説でもそんな空気だったしな。間違いないんじゃないか」
確かにあの演説はシーゲル・クラインが1番それらしかったな。
「ウソつけ。ミゲルはジンに気を取られて演説なんて全然聞いてなかったじゃん」
「イヤイヤ、ソンナコトナイデスヨー」
「まったく……」
ハイネの話の通り、シーゲル・クラインがプラント評議会議長に選出された。これでまた1歩、戦争へと歩みを進めたことになる。そしてそれは俺自身が体感することになる。
ZAFTが評議会を牛耳ったことで今までよりも活動がしやすくなったようで俺のいたコロニーにジンが大量配備され、人員が大幅に増えた。更にはいつの間に開発したのかわからないがとうとう戦艦まで登場した。船体が丸みを帯びていてあまり強そうにないが確かに原作で見た覚えがある。名前は忘れていたけど、ローラシア級と聞いて、あー、これがそうだったのか、というのが感想だ。ローラシア級って名前はよく聞いた覚えがあるんだけど船体はあまり映ってなかったから合致しなかったわ。どちらかというとヴェサリウスの方が印象が強いし。(ミゲルはヴェサリウスがナスカ級という級名であることは忘れている)
他にも、新たに増えた人員は新人も多いが赤服候補達(現状はまだ制度はない)も合流したようで驚いたのは共に配備されたジンの中に軽斬刀を装備した機体がいたことだ。どうやら軽斬刀はいつの間にやら制式採用されていたようだ。そういえばこの前、軽斬刀の運用データの提出を求められたな。もしかしてこれが原因か?まさかラファエルが考えた物がこうして公式的に認められるなんて……感慨深い。もう子供扱いできないな。
ただ、それがまた新たな騒動の原因となった――
「おい、なんでお前等如きが軽斬刀を持ってんだよ!」
どうやらキャリア組(仮)は選ばれた存在の自分達が使っている特別装備が気に入らないようだ。ちなみにお前等、という言葉で分かる通りハイネも軽斬刀を使っている。ラファエルにお願いしたら喜んで請け負ってくれて、翌日には到着していた。このサイズで特注品を翌日とはA○azonもびっくりだ、と思っていたが量産されていたなら納得だ。
「なあ、ミゲル」
「どうした?」
「その流れるように人間分解をするのはさすがにどうかと思うぞ」
「……いつの間に?」
俺自身も気づかない内にキャリア組の1人を四肢の関節を分解(外して)いた。そういえば、からくりサーカスのラスボスがこんな技を使っていたような?