第二十四話
油断をしない、という心掛けは正しかったとミゲルは機体を急旋回させる。
数こそ2対4と差を縮めた。しかし数を減らした形ではあっても相手が少数であるという油断や自分達こそが精鋭という驕りなどの隙がなくなったことで2対6だった時に比べると戦いづらくなったのだ。
「練度が違う相手だと感覚が違うな」
言い方は悪いが今までミゲル達が対戦してきた相手は一般市民上がりで、つまりスタート地点はミゲル達と変わらない存在だ。それに比べるとキャリア組は下手をするとジンの土台作りから関わっている者すらいる。身体能力や操縦技術ではなく、経験の差、そして知識の深さを感じさせる。最初から舐めずに戦っていればもっと優位に戦うことができただろう。実際、2対4で戦っているとは言っても、ハイネに1機、ミゲルに3機というバランスで拮抗しているのだから。
「もうすぐ奴は弾切れを起こすはずだ!そこを狙うぞ!」
「おう」「はい」
キャリア組はミゲルがマシンガンを両手に持っていることでリロードするのに片方のマシンガンを放棄しなければできないことを機に攻めるつもりでいた。これは過去にキャリア組で両手マシンガンを使うことも視野に入れて運用した時に得た教訓だ。そして期待していた時が来た。2つのマガジンが外れ、宙を舞う。
事前に示し合わせていただけあって合図をせずとも一斉に動き始める。
だが――
「未熟、実に未熟!」
通常のジンなら腰に予備マガジンがマウントされているが、愛しの弟・ラファエルを筆頭とした開発局による改造、改良によってもたらされたミゲル機は違う。予備マガジンは上腕部側面に1つずつ、背面に1つ、両腕合計6つがマウントされている。脇下に位置するマガジンが肘辺りまで跳び出して止まり、マシンガンの上部をそれに合わせるように持ち上げると――
「リロード完了っと!」
リロードが終われば上腕部のマガジンが回転して背面にあったマガジンが脇下の位置に移動する。
ちなみにこの装備の発案はミゲルだったりする。正確には腕が2つあるからと言ってマシンガンの装填するのに一々両手を使わないといけないのは面倒だし、片腕が使えなくなった場合に何もできなくなる可能性がある。だからと言ってベルト式装填――わかりやすく言うとガトリングの横から生えた弾が連なったやつ――は無重力下だと宙を泳いでしまうとバランス調整が難しくなるから好まない、と説くと用意されたのが、腕部装填装置である。余談だが、マガジンが跳び出してくるのにはマガジン内に小型バッテリーを搭載してそれを動力としている関係上、装填弾数が1発少なかったりするし、回転したり跳び出したりとギミックが多いため、機構の増加によりコストが上がり、メンテナンスコスト増加、機能不全確率も増加、上腕部というコックピットに近い位置に弾薬があることなど有益ではあるがデメリットもあり、今はまだ検討中である。
「くそっ!なんなんだよ!そんな装備なかっただろ?!」
思惑が外れ、逆に反撃を食らう形となり足並みが崩されるキャリア組とそれを更に拡大するように高速で動くミゲル。戦いが長引いたのはただキャリア組が優秀だから、というだけでなく、この弾切れのタイミングで決着を付けるべくして消極的な戦い方をしていたからだ。しかし、その前提条件が崩壊した以上、キャリア組は戦術を変えなくてはならなくなるわけだが――
「次の一手ぐらい考えておくんだな!!」
「く、来るなあぁ?!」
旋回こそしたが減速を1度もしないミゲルは更にスラスターを吹かして――
「ちっ、この距離まで近づかないと当たんないんだから未熟なのは俺もだよな。精進あるのみ。押忍」
本来のジンがマシンガンで戦う距離からすると随分近いのにミゲルは舌打ちしてつぶやいた。相手が今までの相手よりも優れているというだけで射撃の精度が落ちていた。それはミゲルの射撃能力が低いわけではなく――
「やっぱりもう少し速度を落とさないと満足に当てられないな」
「なら落とせよ!そんな速度必要ないだろ!増槽3個とかフル装備過ぎるだ!」
「念には念を入れるのが心情なんでね。それにそう思うならそっちを片付けてから言えよな。ハイネ」
「むぐっ」
「タイマンで手間取っているなんて……未熟者め。こっちは3機相手に1機落としたぞ」
「……そのとおり過ぎて返す言葉もないってのはこのことだな!」
「いやー、楽しかったな。やっぱり相手が強いと張り合いがあるわ」
あれからハイネが気合を入れてタイマンを制し、1対3で五分、1対2で押されていたキャリアさん達がタイマンで勝てるわけもなく、最後は勝利。それでも随分粘られて過去で2番目に苦戦した。ちなみに1番はボブとの試合だ。……くそ、ボブにはまだ両手を往復するほども勝ててない。精進あるのみ、だな。余談になるがガチの実戦であるテロリスト達との戦いは死亡リスクこそ1位だが苦戦したというカテゴリー言うと8~10位ってところなのがナチュラルとコーディネイターの差だな。生身の戦いで、しかも銃で武装してこれだからな。ナチュラルは本当にハンデあるわ。
「ま、ハイネの汚名も少し返上できたし、良かったな」
「くっ、事実を言っているのにフォローされている感があって素直に受け取れない」
実は整備士のおっちゃんに聞いたんだけど、ハイネが相手していたパイロットはキャリア組のエースだったということが発覚した。さすがに俺も3人相手している時はハイネの戦いぶりを見ていたわけじゃないから知らなかったけど、後で映像を見たらハイネはよく戦っていたと言うしかない。
「ミゲルは何処か遠い世界の住人っぽかったな。1人だけ違うテクノロジーで開発された兵器が混ざってるみたいだったぞ」
それでも俺の速さの師匠、クーガー師は速さが足りないと囁いておられる。ちなみに技の師匠は東方不敗師だ。コーディネイターの名にかけて!
「これで腕部装填装置に弾みがつけばいいんだけど……優位性は示せたと思うが」
「たった1戦でそれほど変わらないだろ」
「……だよな」
言っといてなんだけど、たったこれだけで1つの装備の正式採用が決まるわけないか。
「便利だとは思うけどな。増槽よりは」
ハイネが言う通り増槽はある意味色々と問題がある。推進剤を増やす事自体はいいが、その増やした分だけ推進剤を消費する観点から効率があまりよろしくない。それに現行の増槽は俺の意見で作られている関係で増槽自体が物凄く脆いため少しでも被弾しようものなら爆発間違いなしという代物だ。それに俺のジンはかなり軽量化しているから増槽の効率が改善もされているわけで、一般向けではないのは間違いない。
「と言いつつハイネも使っているだろ」
「まぁ……無いと不安になるのも事実だ」
俺ほどでないにしろハイネも速度からな。推進剤を気にして戦わなければいけないのは窮屈なのはわかる。