第二十五話
「いや~、清々しい思いだ!」
俺の発言を他のコーディネイターが聞いたならナチュラルへの鬱憤を晴らす機会を得た、とでも考えそうだが、本当のところは違う。
とうとうプラント運営会議で理事国に自治権と貿易の自由化を主張した……わけだが、正直に言うともうちょっとやり方があるだろ、と思わなくもない。理事国が暴利を貪っているのは事実だとしても、コーディネイターが奴隷扱いされているとしても、もう少し妥協すべきだと思う。理不尽だから、人権無視しているからわからないでもないけど理事国が多額の資本を投入したのは間違いない事実で、プラントの所有権は100%理事国にある。それを乗っ取った挙げ句、お前等と取引するかわからないけどな!って言ったら国どころか個人ですら何言ってんだ、訴えるぞってなるのが普通だ。軒先貸して母屋取られるってのは正にこのことか。もう少しローボールを投げ込んで、それを突っぱねさせて世論で訴える方が良い気がする。まぁ地球とは物理的に距離がある以上は訴えが届くかは謎だが。俺だったらせめて自治権と貿易対等化にしておくけどな。飴が減るのと無くなるのではやはりイメージが違う。
……なんて色々考えていたが、それは正常な組織相手に行える手段だと改めて思う。
「本当に清々しいまでに青秋桜だよ。ったく」
何が青秋桜かって、また連合が軍を出してきたことに関してだ。1度やれば2度やるとは思ってはいたけど、本当に軍のフットワークが軽すぎる。だが、今回俺達には対抗する力があるのだから当然出撃することになった。
現在俺はローラシア級フェルミに配属されるすることになった。そして――
「本当だよな。軍って本来こんなに軽々しく動かすものじゃないんじゃなかったのかよ」
なんと、驚いたことにハイネもフェルミに所属、というか同じ小隊……しかも小隊長様になった。てっきり俺とハイネは所属先は別だと勝手に思っていたんだけど、一応人事理由を聞いてみると、すっっっっっっごい遠回しに、お前の手綱を握ってもらうためだ的なことを言われた。いやいや、The常識人の俺がなんでそんな扱いをされるのか……まぁ俺としてはやりやすくて助かるのも事実だからいい。ちなみに小隊長になったのは俺の手綱を握るためではなく、単純に統率者としての能力が小隊の中で1番優れているからだ。俺も一応は基本的な指揮ぐらいならできるが問題はひたすらずっと高速機動で飛び回っているから指揮官に向かない。特に優れているってわけでもないからやらなくていいならやらない方がいいと思う。
「とはいえ、俺達の出番は多分ないか」
「ない方がいいだろ。少なくとも今は」
今回はローラシア級という戦艦のお披露目で、ジンの出撃は予定にない。連合が攻撃を仕掛けてこない限りは。ジンには自信があっても数が揃いきっていないし、パイロットの習熟度もまだまだとしか言えない現状(ミゲル視点)では時間が必要だ。
「野蛮なナチュラル共め、いい気になりおって」
そう呟いたのは、俺達の小隊最後の1人、サトーさんだ。腕は生身も操縦もなかなか良く、おそらく将来は赤服を着ることになるぐらいには。ただ、ナチュラル差別が少し不安になるやつだ。別に個人の主張に事細かく突っ込むつもりはないが、戦場に、特にMSを操るのに必要なのは冷静な思考だ。ナチュラルを軽くみて油断が生まれたら目も当てられない。なにより本人にとっては迷惑な自殺だけど、俺達まで巻き込まれるのはごめんだ。……それにしてもこのサトーさんの声、何処かで聞いたことあるだけど、もしかして原作で出てきてた人なのか?ああ、原作と言えば、多分3人の原作キャラが身近に現れた。それはローラシア級はMS搭載機数が6機ということもあって、もう1つの小隊で――
「戦いの前からそんなに興奮していたら足元をすくわれるよ」
そう言ったのはその原作キャラ?のヒルダ・ハーケンだ。そして脇にはヘルベルト・フォン・ラインハルトとマーズ・シメオンを従えている。この3人は多分パチモンドムに乗って出てきた奴ら……のはず。男の2人の顔は正直覚えてないけど紅一点のヒルダの顔は覚えている。なら原作キャラ?と疑問形になっているのかというと、彼女のトレードマーク?である眼帯をしていないからだ。両目があると雰囲気が違うというか……そもそも黒い三連星もどきは登場回数が少なすぎんだよ。それはともかく、多分彼女の目はこれから負傷するんだろう。どうなるか神のみぞ知るってやつだな。
黒い三連星とも生身、MSで腕試しをしたが……いやー、さすがの連携だった。これでまだ実戦を経験してないってんだから嫌になるな。タイマンなら勝てるが1対2は辛い、1対3はもちろん、ハイネと組んで2対3でも五分、いや、四分ってところか。ちなみにサトーさんを追加すると六割ぐらいになる。まだサトーさんとの連携が十分にできているとは言えないからこんな数字だ。毎日が修行だな!押忍!……ん?サトーさんが若干震えた気がしたけど……気のせいか。
「ハイネ、ちょっと話したいことがあるんだ――」
とヒルダがハイネに話しかける。なぜかヒルダはハイネとだけ妙に距離が近い、それに明らかにテンションが違う、……あまり下世話なことは趣味じゃないけど、ホレたのか?なら応援することも吝かではない。もしハイネの犠牲でヒルダを引き止めることができれば黒い三連星もどきを引き止めてラクス勢ことラクシズの戦力が削れることができる。テロリストが減ってリア充誕生!実に平和な削り合いだ!なにせこちらは増える可能性もあるからな。実に健全だ。……にしてもヘルベルトとマーズが見るヒルダへの眼差しが微妙なものであることとハイネをへ向ける眼差しも同じように微妙だ。一体なぜだ?嫉妬ととかそういう負の感情ではないように見えるが……更に言うとなぜかヒルダから時々だが鋭い視線を感じる。つい反射的に護身用指弾用コインを何度弾きかけたことか。危ないから止めてほしい。(危ないのは果たしてどちらか)
ローラシア級5隻とドレイク級と呼ばれる護衛艦9隻、戦艦ネルソン級3隻、アガメムノン級1隻が睨み合うだけで睨んで連合軍は撤退していった。まぁそりゃ本格的に武力行使をするには攻撃されたならともかく、攻撃を仕掛けるには議会を通さずに現場だけで判断はできないから当然の結果だろう。強いて言えばコーディネイター憎し、ナチュラル憎しでドカンと暴発しなかったことだけは幸い――と言えるかどうか、目の前の映像を見ると微妙な気分になる。
「いくらプラントが武装したからってなぁ」
モニターには地球で大規模なコーディネイター狩りが多発しているというニュースが引っ切り無しに流れている。そのおかげというか、コーディネイターがプラントへの移住が相次いでいる。