第二十六話
コーディネイター、プラントへの大移動。これの意味するところは人口増加もあるが――
「絶対スパイがいる」
「ナチュラルに協力してなんになるというんだ」
相変わらずのサトーさんのナチュラル蔑視発言だが――
「本人がコーディネイターでも親がナチュラルの場合だってある。ナチュラルがプラントで住みにくいのは想像できるだろうし、地球に残ることになると……どういう扱いになるかな」
「人質か」
「ありえるだろ?」
ニュースを見る限り、コーディネイターへの迫害はナチュラルの親まで広がっているケースが多々ある。国によって違うが、大西洋連邦はコーディネイターの保護をする動きを見せないが、コーディネイターの親は保護する動きをみせている。あの大西洋連邦が、コーディネイターの親を保護……どんな扱いするのやら。親がナチュラルのコーディネイターは親がナチュラルだからと蔑視しているわけじゃないだろう。となると親を人質にされたらどうなるか。胸糞だよなぁ。
「これだからナチュラルは!」
いや、別にコーディネイターがやってないとは言ってないんだが……そもそも俺に喧嘩売ってくる奴って大体こっちより数が多い状態で絡んでくるからな。個々の性根次第だろ。この重要な時期に喧嘩なんかしたくないから言わないが。(喧嘩をしたくないというのは怪我をさせて欠番出すと怒られるという意味である)
「ミゲル、サトーさん。聞いたか?理事国から通告が来たんだと」
「要求でも勧告でもなく通告って時点で嫌な予感しかしない」
更に言えばハイネはこの手の話を聞いてもあまり表情に出ない奴なのに今回は呆れを隠してもいないところを加えるとほぼ間違いなくいい話ではない。
「正解。内容は、クライン議長の引き渡しと議会の解散、プラントの自治権を放棄するように、だとよ。これはさすがに――」
「何処まで馬鹿にする気だ!」
ダンッ!とデスクを叩くサトーさん。まぁさすがに同意見だな。わざわざ戦艦まで用意しているのに今更降参すると思ってんのか。
「しかも理事国側は何ら妥協案を示して来なかったんだってさ。さすがに笑うこともできなかったぜ」
「――!……時が来たら私の手で血祭りに上げてやる!」
サトーさんのナチュラル嫌いがレベルアップしたな。暴走しなけりゃいいけど。(と常に先頭を突っ走っている人が言っている)
「これは上層部も怒り心頭って感じか」
「ああ、一応無闇にこの話を広げるようなことはしてないように箝口令が出されているけど俺に話が伝わってくるぐらいだしな」
これはアレか。もしかしなくてもプラントが戦艦という誰の目に見てもわかりやすい兵器を保有したことを好機とみて、こちらから引き金を引かせて世論を味方につけて民意として戦争を仕掛ける気か?正確に言えば連合的には戦争じゃなくてテロリストの鎮圧あたりだろうけど。そういう意味では武装した時点で問答無用で攻めてこなかったのは、まだ民主主義がギリギリ息をしているということかもしれない。
とか思っていた過去の自分を殴りたい。マジで理事国潰してやりたい。
「食いもんの怨みは怖いってのを知らないのか。奴らは」
理事国が食料の輸出を制限しやがった。気持ちはわかる。兵糧攻めで心から攻めようって気持ちは。制裁だから、人も死なないから、金も掛からないから。それはやる側の理論でやられる側は相当怨む。実際俺もサトーさん化仕掛けているほどだ。これ、俺とラファエルが働いてなかったら我が家はかなり窮地に立たされていたな。
そして、更には――
「おい、聞いたかよ。連合の奴ら、俺達の貨物船団を沈めやがったらしいぞ」
「マジかよ。ローラシア級ならともかくただの貨物船だろ?!ナチュラルは何を考えているんだ!」
ジンを乗り回して帰投。メンテナンスが大変だから毎回全力で動かすのは止めてくれ!と整備長に説得されている隣で整備士同士がそんな会話をしていた。連合が?そんな甘い考えの組織じゃないはず……軍内のブルーコスモスが独断で動いたか、もしくはブルーコスモスがテロったのを誤報したかのどちらかだと思う。
「ここだけの話、その貨物船団ってのは南アメリカから食料を輸入しようとしてたんだと」
「は?南アメリカ?確か連合に入ってただろ。なんでまた俺達に協力しようってんだ?」
「どうやら連合も一枚岩ってわけじゃないらしいな。南アメリカ……正確には南アメリカ合衆国は理事国じゃないから大西洋連邦と違ってプラントの利益を得ていない。だからこそプラントの工業製品が欲しい。んで俺達は食料が欲しい。お互い利害が一致したことで密約を結んだんだと」
「はー。なるほどねぇ」
この話を聞いて少し安心した。プラントはこのままナチュラル全体を敵に回すことになるかと心配していたが、評議会はちゃんと外交もしていたんだな。連合の中心にいる理事国がナチュラル全体の意思ってわけじゃないってことをわかっていたんだな。ちょっと評議会を見直した。
「でも結局失敗かー。食料を理事国に依存しないようにしたいよなぁ。さすがにしんどいぜ。ここのところ缶詰ばっかだし」
俺も同意だ。
「そこでZAFTを一旦解体して再編するんだとよ」
「ハ?なんの意味があるんだ。今更」
「警察と警備関係を完全合併」
「……ということは」
なるほど、つまり――
「ああ、本当に戦争は近いぞ」
気を引き締めて訓練しなくちゃな。
「ミゲル!お25聞いてんのか!あ?!」
年が明けてコズミック・イラ69年。
整備士のおっちゃんが語っていた通り、ZAFTの再編成が開始された。それと同時に新たにナスカ級高速駆逐艦が配備された。あのクルーゼ隊の母艦だな!俺的にはローラシア級よりナスカ級の方が好みだ!火力はローラシア級に劣るけど高速駆逐艦という名前だけあってその船足は軽快そのもの。その船足があれば逃げることも追うことも避けることも可能だ。今の俺達が負けることがあるとすれば母艦が沈む、多勢に無勢、連戦に次ぐ連戦で補給ができなくなるのどれかだと思う。それを全て対処することができるんだからいい!
そして増えたなーと思っていたジンが更に増えた。そしてひよっこパイロットも増えた。低能コーディネイター集団がいつの間にかちょっとマシになって、ひよっこパイロット達を指導する側になっていた。本当にいつの間にって感じだ。多少マシになったところで指導者となれるんだろうか。
とうとうZAFTが表舞台に立った。プラント評議会の議長はシーゲル・クラインだけど、ZAFTを軍組織として正式に設立され、最高責任者としてパトリック・ザラ着任。
何より――
「まさかユニウス市で食料生産を始めるとはな」
「聞いた話だとアレ、大洋州連合から輸入したらしいぜ」
「へ~、南アメリカ合衆国以外にも協力国はあったのか」
宇宙という生物資源が存在しない場所で生きる俺達にとってありがたい存在だ。地球なら代用作物を模索することもできるけど宇宙だとそれすらできない。
「理事国からは毎日抗議の通信が入っているらしいけどな」
「獅子に翼を与えるに等しい所業だから当然といえば当然か」
食料問題を解決できればプラントの最大の弱点はなくなる。そうなればナチュラルに、理事国に従う必要はなくなる。
「だからこそ理事国は黙って見過ごすとは思えないんだが」