第二十七話
「予感的中、か」
連合軍……厳密に言えば理事国がプラントに向けて放送を行った。それは内容は――
「我々のプラントを不法に占拠し、世界に悪影響を与えるコーディネイターのテロ組織を武力を持って鎮圧する!」
という今までと違って直接的に、そして交渉など顧みないものだった。言っている内容は本当ではないが嘘でもないって感じだったな。拡大解釈と縮小解釈が酷いけど。
「情報局から仕入れてきたけど理事国の奴ら、今回は本気みたいだぜ。戦力は太平洋連邦とユーラシア連邦がそれぞれ1個艦隊が準備中だってさ」
ハイネの情報収集能力は高い……いや、人脈か。俺の場合出回っている情報から推測だけど、ハイネは人の繋がりで情報を集める。確度はハイネの方が高いけど情報の広さ的には俺の方が上……と言いたいがZAFTに入ってからは人脈そのものが上質になっているから重要な情報を得られやすくなっているため、やっぱり俺の方が下だな。
それにしても他の理事国はともかく、東アジア共和国も宇宙軍を保有しているはずだけど、今回は不参加らしい。
「2個艦隊か、プラントが低く見積もられているのか高く見積もられているのかわからないな」
東アジア共和国が参加していたら数を合わせてくるはずだから3個艦隊になっていたはずだから不参加なのは喜んでおこう。確か連合宇宙軍の1個艦隊はアガメムノン級航宙母艦1、ネルソン級戦艦4、ドレイク級護衛艦19、マルセイユIII世級5だったか。後は臨時編成として数の増減があるはずだ。(原作当時と比べるとMSの脅威もあって大きく編成数が異なる)
ということは2個艦隊アガメムノン級航宙母艦2、ネルソン級戦艦8、ドレイク級護衛艦38、マルセイユIII世級10が最低戦力と考えると艦載機であるメビウスは300以上か。
「わかっちゃいたけどなかなかの数だな」
これが東アジア共和国が参戦していたらアガメムノン級航宙母艦3、ネルソン級戦艦12、ドレイク級護衛艦57、マルセイユIII世級15、メビウス450以上だろ?こっちの戦力は現状でローラシア級15、ナスカ級5、民間船改造輸送艦8、ジン艦載可能数は満載で216機。数ではこちらが不利だけど、原作基準で言えばジンとメビウスは1対5の戦力比だからメビウス換算すると1080機ということに……改めて計算するとバグっているとしか思えない数字だな。3個艦隊でもなんとかなったな。被害の差はあるだろうけど。
不安なところは機動戦力はこっちが有利なのは原作でわかっているとして、艦隊の方だ。原作だと次々落としていたからジンが有効なのはわかるけど艦隊戦だとどうなるのか。艦隊戦だと艦艇数は圧倒的に負けてしまっている上に一部は民間船の改造艦でMS輸送とカタパルト以外には近接防御用の機関砲ぐらいしか装備していない。簡単に言うと数合わせに過ぎない。ミサイル迎撃では役に立つかもしれないが砲撃戦では戦力外だ。
「理事国側の出撃時期とかわかっているか」
「早くて1ヶ月だってさ」
「ならまだローラシア級なりナスカ級なりはまだ増えるか」
「だな。もうちょっと数がないと不安だったから助かる。というかあんな輸送艦に乗るのは勘弁だ」
やっぱりハイネも同様の心配をしていたようだ。俺達はフェルミに配属されているから移動させられることはないと思うが、さすがにアレに乗るのは俺も嫌だ。
「そういえば腕部装填装置は一定以上の能力があるパイロットに対してだけど正式に採用されるってさ」
「おお、なら交換パーツの不安がなくなるか」
「追加で補給されるってさ。今度の戦いで想定されるメビウスの数の多さに上は不安に思ったらしくて増産を急いでるって話だし、多分そう時間がかからないんじゃないか」
通常の装填方法じゃ片腕がなくなったら帰還以外の選択肢がない。数で劣るこちらがその程度で後退できるほど余裕があるかどうか実際戦ったことがない今はわからない以上、できる限りのことはしておこうってことか。メビウスとジンは数だけ比較すると倍以上の差があるから不安になっても仕方ないな。
「これで個人的な不安は取り除かれたか」
戦争まであと少し、か。随分と平凡とは違った人生を歩むことになったもんだ。
1ヶ月後、連合軍の出撃を観測されたという報がプラント全体に響き渡った。その数は事前情報と変わらず2個艦隊。
プラント評議会は満場一致で徹底抗戦を決定。ZAFTに出撃を要請し、それに応えて艦隊が出撃する。
その数、ローラシア級20、ナスカ級8、民間船改造輸送艦8(あまりに不人気だったため追加はなし)、そしてMS・ジンは264機が搭載された。ローラシア級の製造数が多いのは船足が速いナスカ級よりも艦隊戦の強化を視野に入れてのことである。
「とうとうこの時が来たって感じだな」
「ああ、そうだな」
「今こそナチュラルに鉄槌を!」
ミゲルが声を掛けるとハイネとサトーが応える。サトーはいつものように……いや、いつも以上に息巻いているが、ハイネは――
(緊張しているみたいだな)
他者にはわからない程度の変化に過ぎないハイネの心境を師弟関係に近いミゲルだけが察した。
(しまったな。これなら青秋桜刈りで童貞を捨てさせておくべきだった)
ミゲル自身は既に青秋桜相手に経験豊富、いや、ひょっとするとプラントでトップと言ってもいいほどの経験を積んでいることから今更緊張はない。どちらかと言うとサトーと同じ種類である本物のMSを操り、駆けられるという興奮と歓喜が強い。その点、ハイネはテロに巻き込まれこそしたが、その時はミゲル1人で全滅させた。故に殺し合いなどしたことがない。
「ハイネ」
「ん?」
「スパーリングするか、本気で」
「なんでこのタイミングで?!」
「いや、殺し合いよりも怖いことを経験しておけば、殺し合いも人を殺すことも怖くないかと思ってな」
「「酷い理論だ」」
「あ、サトーさんも参加するか?仲間外れも悪いし」
「結構だ!」
「お、やる気があって良し」
「ミゲル!わざと解釈するな!断固拒否だ!」
「ちっ、ならハイネだけでいいか。よし、格納庫にいくぞ」
「あ、俺に拒否権ないのね」
その後、久しぶりに本気を出したミゲルだったが、うっかり格納庫の壁を思いっきり殴って派手に凹まして(陥没?)しまい、戦い前に始末書と戦うことになったのは余談である。ちなみにこれによってハイネは戦場で緊張することはなくなったそうだ。
めでたしめでたし。