第二十九話
艦隊戦の勝敗はどっちつかずで終わる。いや、連合軍は艦隊の数も勝り、戦力としても入れている以上、開幕で対して効力を得られなかった段階で連合軍的には負けに等しいと言える。
そして互いの機動戦力が激突する。
厚い装甲、それでいて高機動、そして軽やかな運動性を持つジンは縦横無尽に動き回り、旋回するだけでメビウスという機体的にもパイロットへの負担的にも大回りしなくてはならず、その上ジンが所持しているマシンガンの威力はメビウスを仮想敵としているため、効果は抜群である。となると――
「だ、誰か援護を――うわー!!」
「くそ、後ろに回り込まれ――」
「宇宙で足なんてわけわからんものつけている兵器に負けてたまるか?!」
「こいつらミサイルは落としやがるしバルカンは当たっても効きやしねぇぞ?!レールガンは有効だがあんな動きをされて照準なんてつけられるか?!」
「基本は同じはずだ。推進器を壊せば――」
連合の通信は地獄のような声で溢れている。
打って変わってZAFTの方はというと――
「くたばれ!ナチュラルが!」
「よくも今まで搾取してくれたな!」
「お前達のせいで妻と子供は腹を空かせる毎日を!!」
「そんなに弱いのに偉そうにするんじゃねーよ!カスが!!」
怨嗟、怨嗟、怨嗟。
ZAFTにはナチュラルに差別意識がないコーディネイターはいるし、能力の高さに反比例するかのように精神年齢が低いコーディネイターが多い中でも普通のコーディネイターもいる。しかし、理事国に恨みを抱かないコーディネイターはZAFTにはいない。
とはいえ、戦場は多対多である。メビウスの武装で有効なのは実質レールガンのみではあるが――
「数で攻めるぞ!追い込め!」
いくらコーディネイターが単体で優れていたとしても連携という部分では連合に劣る。積み上げた時間と金と汗と血の量が違い過ぎる。何より連合は『ZAFTは新型機動兵器を主力兵器とした』という情報を事前に入手しており、対策としてメビウスは定数なら300機前後であるにも関わらず、無理をして550機を搭載してきた。数の上では2倍以上の差がある。それに加え――
「護衛艦を全面に出してスクラムを構築!ミサイルが当たらなくともメビウスの支援にはなる!弾幕を張れ!」
ドレイク級宇宙護衛艦の役割はその名の通り護衛であり、対象はアガメムノン級宇宙母艦やネルソン級宇宙戦艦、マルセイユⅢ世級輸送船なのだが――
(アレに前線が突破されてはマズイ。どこからどう見ても子供のおもちゃにしか見えないが本物の兵器だ。対空兵器は砲もあるがそれこそお守り程度のものでメインはミサイルだ。今ならまだ対応できるが距離を詰められればミサイルは撃てん。ゴットフリートではあの旋回速度に追いつかんだろう……潜り込まれたら内側から食い破られるぞ)
連合軍を率いる提督はMSという新兵器に冷や汗が止まらなかった。聞こえないどころか歩いてもいないというのに足音が聞こえる気すらしていた。
時間が幾分か過ぎると――
「いまだに劣勢ではありますがなんとか前線安定しました」
「うむ」
オペレーターの声を聞いて心の中で大きな安堵を吐く。
「な、なんだ。これは」
「どうした!」
「そ、それが安定していた前線が1機に崩されています!」
レーダーに映る味方の光源が次々と点滅し、消滅していく様は先程聞こえた足音が視覚化されたものに見えた。
「1機だと?……エースか!」
提督はすぐにその存在に思い至ったのはメビウス・ゼロの存在だった。メビウス・ゼロはメビウスの1世代前の機体にも関わらず、その固有の武装によって連合宇宙軍で最強と言っても過言ではない強さを持ち、通常のメビウスでは1対3でもメビウス・ゼロが有利というデータまであった。その反面個人の才能に大きく左右されるためパイロットが揃えられないという兵器としては劣悪とも言えるものとなる。
それに機動兵器には度々こういった規格外のパイロットが現れるものだと提督は前大戦の経験上知っていた。
「連合最大の軍のはずだが……こんなものか」
エース認定された仮面をつけたパイロット、ラウ・ル・クルーゼはマシンガンの射程内にいた最後のメビウスを撃破してそう呟く。
「おっと、さすが目立ち過ぎたか」
自身に大量のミサイルが飛来しているのを見て呟く。
瞬く間に16機ものメビウスを宇宙の塵へと変貌させた存在をただ見過ごすわけもなく、取られた対処が逃げる先がないほどのミサイルだ。
MSに対応していないミサイルとはいえ、電波妨害などはしていないので誘導が有効であり、数が揃えば脅威である。
機体を後退させつつ、マシンガンで迎撃して数を減らし、残弾がなくなれば腕部装填装置で素早くマシンガンの装填を済ませて再び弾幕を張り、数が減れば機体の切り返しだけで振り切って見せた。
「それにしても私に集中していて良いのかね。君達は既に――」
――小さき英雄に狙われているようだぞ。もっとも今回で本物の英雄となるかもしれぬがね。
「おい、ミサイルが来ているぞ。迎撃!」
「こっちからは見えないぞ!」
「3発だから見えづらいが間違いない。レーダーをみろ!明らかにこの速さはミサイルだろ!」
「3発だけ?」
3発のミサイルなど迎撃システムや誘導ミサイルの前にはなんの意味もない。メビウスには混戦中なら意味はある。だが逆を言えばそうでなければやはり意味がない。それぐらいは素人ばかりのコーディネイターであっても理解しているはずだ、という考えが浮かんだがレーダーには確かに反応はある。それに速度的にも間違いない――
そのはずだった。
「目視確――な、何?!人型だと!!」
「なんて速度出してやがる!」
目に入ってきたのはミサイルではなくミサイルと同速度といえるほど加速したMSであった。
「動揺するな!急げ!迎撃だ!!」